救世主
「何やってんだ!」
オッサンに怒られた。
「お…俺のせいじゃ…」
「貴重な戦力がいなくなっちまったじゃねぇか!勝つ気あんのか!?」
「ありますけど…」
「けどじゃねぇ!責任取れよ!責任!」
「そのつもりですけど…ぐす…」
なんだかサラリーマン時代を思い出す。
上司に理不尽に叱責された過去を思い出し、不覚にも涙ぐんでしまった…
「いきゃーいいんでしょ!いきゃー!」
このやりとりの間、待っていてくれた魔獣に若干の感謝をしながら向き直る。
剣を構え、深く息を吸い込むと、ほんの少々ではあるが乱れていた気持ちが落ち着いた。
「なんで俺の歓迎会の飲み会の幹事を俺がしなきゃいけねぇんだよ!」
しかし一度蘇った過去の苦い思い出はなかなか切り替えられなかったようで、愚痴を叫びながら魔獣に切りかかる。
片手で軽々と弾かれた上にカウンターで顔面や腹を殴打されてしまうが、むしろそれがまた俺の怒りに火をつけた。
「先方に送ったメールの確認の電話って無駄すぎるだろうが!!」
斬るというより叩きつけるように剣を振るう。
「ようやく!宝くじが当たって!ブラックな職場ともお別れできるハズだったのに!!」
魔獣にしてみればいい迷惑だっただろう。
よくわからない前世の愚痴を聞かされながら切りつけられるのだから。
更に言えば俺の耐久力の高さも恐らく魔獣にしてみればストレスであった事が予想される。
本来であればすぐにでも粉微塵にできるほどの実力差、矮小な下等生物である俺がここまで粘るというその事実だけでも、魔獣にとっては頭にくる事この上ないであろう。
「ガアアアアァ!!」
肩を捕まれ、そのままの状態で顔面を何度も殴られる。
身体が固定されてしまった上で殴られ続けると耐久力云々ではどうにもならない。
ただでさえ硬いハンマーのような拳をしているのだ、一発一発で骨が軋みまくる。
「ぶえ…」
「ジンーーーー!!!!」
涅槃が見えた頃に待ちわびた声が響き渡る。
「待たせた!よく耐えたーー!!」
勿論その声の主はジェノだ。
完全武装のジェノが帰ってきたのだ。
待ちましたよ、もう痛くないところ無いですよ。
「崩落演舞!!!」
ジェノが手にしていた武器は巨大なハンマー。
そのハンマーの重さを利用し、何度も回転させ、遠心力で加速。
そのまま、それこそ演舞のようにハンマーの回転に身を預けるような華麗な動きで、超威力と化した鉄の塊を魔獣の腕に叩きつける。
「グギャア!!」
ベギン!と叩き折れたのは魔獣の腕かハンマーの方か。
どちらかは分からないが確かに絶大なダメージを与え、ついでに俺まで救い出してくれた。
魔獣が怯んでる隙に俺を引きずって近くの路地に身を隠す。
「やっぱり並の武器では太刀打ちできんな…ほらポーションだ」
「ありがとう…ふぅ…今日はお腹チャプチャプになっちゃうな…」
「顔がベコベコのままよりはいいだろう?」
「うっそ、そんなに酷い顔してる?」
「よくそこまで耐えてくれた!」
ポーションを飲み干すもあまり回復したような気がしなかったが、出血や裂傷、後は手の骨折等はマシになっているように思える。
「それで…何かいい物は?」
「武器は今のハンマーくらいしかなかったな、折れてしまったが」
「え…」
「だが、こいつがあった」
包みを手渡される。
「俺、今は他の武器持てないんだけど…」
ガサゴソと開けると、俺の腕くらいの大きさの白い、クリスタルのような物体が顔を表す。
それは双六角錐を長くしたような形状…と言って分かるだろうか?
両端の鋭く尖った杭をゴツゴツさせたような物体だった。
「何これ?」
呪われた剣がピクリともしないところを見ると、これは武器としてはカウントされないようだが。
「加工中の爪だ、ラグナのな」
「ドラゴンの爪か!!」
それはいつかラグナに貰った爪であった。
まだ武器と呼ぶには荒すぎるが、鋭く尖ったそれは確かに如何なる物でも穿(つらぬ)けそうな空気を纏っていた。
「こいつなら奴の身体も穿ける!」
「だがこいつをそれなりの威力で奴に当てるには…」
「それなりの方法がいるってことか…」
相手の意表をつくには、そしてその上でこの爪をどう当てるか…
まぁ…できる事をやってみましょうか…
「できるだけ痛くない所がいいんだけど…」
「何のことだ?」
ジェノとオッサンの協力が不可欠な作戦ではあるが…思いついた作戦をジェノに伝える。
「…うまく…いくかそれは?」
「どうだろう」
「無茶はするなと言っても聞かんからな…ジンは」
「【勇気の欠片】のせいなんだよそれもこれも」
「どうだかな!」
これで決着!となるといいんだが…
ヨロヨロの身体に鞭打ってもうひと頑張りいきますか!
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