剣
ギャリ!
突進してきた魔獣の肩の棘をフォークで受ける。
なんとか受け切る事ができるくらいには体力が回復していたようだ。
魔獣が若干イライラしているようにも感じるのは気のせいだろうか。
「お前の体力も限界っぽいか?」
そんなわけあるかと言わんばかりに魔獣が拳を振り抜く。
フォークで受けたつもりだが、錆びまくったフォークはそのままバキンと破壊され、重い拳が俺の顔面に突き刺さる。
「そいつは失礼…」
ブバッと鼻血を噴出しながらもなんとか踏み止まる俺はかなり頑張っているんじゃないだろうか?
そもそも俺の目的は幸運になっての幸せスローライフのはずなんだが…?
スローライフどころかこっちに転生してから戦ってばっかりな気がするんだが…?
しかも実力もないから怪我…それも前世では経験することがないような大怪我ばっかりしてるし…
最初の100ポイントを【剣術】とかに当ててたほうがよっぽどいい暮らしが出来たんじゃないのか…?
冒険者になって強い魔獣を狩ってチヤホヤされて…
ああ駄目だ、今は戦闘中だ、なんでこんな事考えてんだ俺。
でもさ、理不尽な気がするんだよな、100ポイントってすげー能力としては高いわけだろ?
「おい!ボーッとすんな!」
オッサンの声で我に返る。
「あれ?」
どうも数発殴られてふっ飛ばされたらしく、俺はオッサンの腕の中にいた。
「ご迷惑を…」
「んなことぁどうでもいいが、奴も確実に弱ってんな」
「そうか?」
「奴の攻撃は建物をぶっ壊すくらいだったんだぞ?お前が生きてんのがその証拠だ」
「そりゃそうだ…でも俺もぶっ壊れそうなんですけど…」
「頭はぶっ壊れてそうだな、手ぶらで奴に向かうなんざ」
「剣どっかに落としちゃったし…フォークすぐ壊れたから…」
「んならこいつ使え、俺の短刀だ」
「短いほうかよ…ありがとうございます」
「奴はお前にご執心らしいからな、お前がこれで奴の攻撃受けてる間に俺が頭をぶった切ってやるよ!」
我先に逃げようとしていたオッサンの言葉とは思えなかった。
「えらい積極的だな、どういう心変わりが?」
「お前が協力して手柄よこすって言ったんだろうが!」
「照れちゃってまぁ」
「バカが!」
なんにせよオッサンの怪力なら確かにぶった切れるかもしれない。
ここはひとつ乗っかると…
「おりゃあああ!!」
なんて算段をしていると、唐突誰かの咆哮が聞こえる。
見ると、俺達を見つけたであろう冒険者が単身、魔獣に切りかかっていた。
「やっと来やがった、乱戦になりゃやりやすくなるかもしれねぇな」
「熱線が怖いけどな…」
「ならいくか!手柄を取られるわけにはいかねぇ!」
確かに人数増えれば隙を見て攻撃を加えやすくなるだろう。
これは好機!好機なはず!
オッサンから借りた短刀を握りしめ、いざ…
と思った俺が見たものは…
ボゴン!と建物の壁をぶち抜いて、とんでもない速度で何かが飛んでくる。
それはせっかく追いついた冒険者の肩に当たり、冒険者は弾き飛ばされた。
その勢いは凄まじく一目で大ダメージなのが見て取れた。可哀想に。
そのまま飛んできた物は魔獣の棘に当たり、それを粉砕しても尚その勢いを落とすことなく俺の手に真っ直ぐ飛んでくる。
「いっでえええ!!!」
俺の手の甲に命中し、手の骨を砕いて停止したそれは、俺の愛用の呪われた剣であった。
「なんで…?いっつも遅いじゃん…ズルズル来るくらいじゃん…しかも御主人の手の骨砕いちゃってんじゃん…」
俺も、冒険者も、当たったのが剣の柄だったから助かった。
これが刃のほうだったなら二人とももっと酷い事になっていただろう。
一番ダメージが少ないのが魔獣というのも笑えない。
「あれか…短刀のせいか…」
今まで剣を手放した時に他の武器を使おうとした事はなかった。
今回初めて代わりの武器を使おうとしたら、これだ。
とんでもない勢い飛んできて、俺の手の骨ごと短刀を叩き落とした。
その前のフォークは武器と認められなかったらしい…
「そういう裏ワザ的なのはさぁ…予(あらかじ)め言っといてくれよ…」
右手は骨が折れてしまったので、左手で剣を握りながら思う。
初めて嫉妬されたのが女の子とかじゃなく武器だったなんて…と。
あとオッサン無事でよかったなと…
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