流星斬
さて皆様、どうだったであろうか。
先程の俺の機転に行動力!まさに英雄と呼ぶに……
え?何だって?ありきたり?出涸らしより出尽くした展開だって?
……わかってる…わかってるよ!口からの熱線が発射されるタイミングで無理矢理口を閉じさせて暴発させる!俺も漫画や小説で何度も見たことあるよ!
ブレスを吐くドラゴンに対して、気弾を吐く大男に対して、歴戦の勇者が取ってきた方法だ!
でも仕方ないじゃないか!俺みたいな凡夫にはこれくらいしか思い浮かばないんだから!
いや正確にはいくつか思い浮かんではいたんだよ!
寸分違わず同じ箇所を何度も攻撃して外皮に穴を開けるとか!硬い外皮を溶かすような薬品をかけて柔らかくするとか!
でも動く敵にそこまで正確な攻撃はできないだろうし、そんな都合のいい薬品もありゃしないんだよ!
あったらとっくに使ってるよ!調合する知識とかもないんだよ!!
すまない、ちょっと興奮してしまったな。
だからそんな「こいつの話つまんねぇな」みたいな顔はやめて、温かい気持ちで見守ってくれると嬉しいわけだ、な?
頼むよ、な?
で、今の俺はと言うとだ……
「あれでも生きているとはな、だがいい一撃だった」
「ハァそんなハァ悠長な事ハァハァ言ってる場合じゃハァ」
「せっかく与えたダメージだ、このまま流れに乗りたいところだな」
「それはハァ完全にハァハァ同意するけどハァ」
俺とジェノは全力疾走していた。
違うな、訂正しよう、俺は全力疾走していた。
ジェノは隣で走っているが涼しい顔だ。
魔獣と向かい合ったはいいが、正面から真っ向勝負というのは得策ではないと脱兎の如く逃げ出したのだ。
幸いにも魔獣もダメージが大きいのか俺達を追う速度はそこまで速くもなかった。
「ハァハァ…………フゥー……でどうしようか」
「いつ奴が回復するかもわからん、できるだけ早く決着をつけたいな」
「だね、セオリー通りなら頭部に続けて攻撃って感じか?」
「そうだな両断できれば生物である以上死ぬだろうしな」
「やっぱり俺が囮になるってのが分かりやすいんじゃない?」
「ジンにばかり危険な目に合って欲しくはないのだが…」
「頼りになるジェノが守ってくれるだろ?」
「無論だ」
速度は早くないものの、俺の気配を追ってきているのか魔獣は確実に距離を詰めてきていた。
あちこち走り回ったせいか他の冒険者達も散り散りになってしまったのは誤算だった。
「来たか」
数メートル先の路地から顔を覗かせた魔獣が、俺の姿を視認する。
「このストーカー野郎!かかってこないならこっちから…………って速っ!!」
ドンと地面を蹴ったかと思うと、もう魔獣は俺のすぐ眼前にいた。
そのまま流れるような動作で横薙ぎに俺を切りつける。
それを剣で受け止めると、ギャリっという金属同士のぶつかる不快な音が響く。
「っぶねえ!」
そのまま二撃、三撃と受け止める。
前に洞窟で殺し屋と戦った時のような偶然ではない、自分の意志と技術で相手の攻撃を受けきる。
凄い成長だろ?とはいえ一撃受ける度に手はビリビリと痺れるし、本当に受け止めるので精一杯であり、まさに防戦一方としか言えない状況ではあった。
「おいおいどうした、大した事ないなー!」
大した事大有りである。
けれどできるだけ挑発っぽく軽薄そうに言ってみる。
それが効いたのか、俺の貧者なガードごと潰そうと両腕を振り上げ、渾身の一撃を振り下ろす。
「それを待っていたぞ!」
隠れていたジェノが横から飛び出してきて俺の脇腹を思い切り蹴り飛ばす。
「ゲッホ!!」
思い切り蹴られた俺はそのままあらぬ方向に飛んでいき、魔獣の一撃を受ける事はなかった。
でもめっちゃ痛いっすよ…ジェノさん…もうちょっと優しくできなかったんすか…
助けて貰ってるから言わないですけど…蹴り重ぇ…
「旋風連斬!!!」
振り下ろした腕を地面にめり込ませてしまった魔獣に向かってジェノが剣技を繰り出す。
頭部を庇う事もできない魔獣に容赦なくジェノの剣が襲いかかる。
凄まじい速さの連撃、それはまるで竜巻のように魔獣の頭部をあらゆる方向から切りつける。
「ゲッグアアギャアアァ!!」
魔獣の喉から絶叫が上がる。
「これでも両断できんか!頑丈な奴め!!」
だがダメージは絶大だ!
よし、今こそ俺も活躍せねば!
そうなのだ、俺にも習得した剣技があったではないか!
決して出し惜しんでいたわけではない、ジェノの技を見るまですっかり忘れていたのだ。
「いくぜ!!喰らえ【流星斬】!!」
出ない。
「あれ、おかしいな…はあああ!流っ星斬!!」
シーンという擬音が聞こえてくる。
気のせいか魔獣もジェノも冷たい視線を向けているような…
「なんでかな…えい…流星斬…」
最後の足掻きでもう一度言ってみるもそれらしい技が出る事は無かった。
「何をやって!!ふっぐ!!」
そのアホみたいな隙を魔獣が見逃すわけもなく…
俺に気を取られたジェノに魔獣の拳が突き刺さる。
「ジェノ!!」
「大丈夫だ!剣で受けた…が…」
パキンとジェノの剣が根元から砕ける。
「俺の剣を……は無理か…呪われてるし…」
「また一時撤退しかあるまい…」
「逃してくれるかな…」
甚大なダメージを与えられ、魔獣も怒り心頭である。
「耐えるだけなら俺でもなんとかなるし…【人身御供】でこいつ引き付けられるし…」
「何を言ってる」
「ジェノ、武器屋までひとっ走りだ」
「何を!!」
「俺にも何かいいのがあれば頼むよ!あとポーションも!」
「ジン!」
ジェノとは逆の方向に移動し、魔獣の気を引く。
魔獣は今ジェノにやられたというのにジェノには目もくれず俺を追う。
いいぞ、これならジェノから引き離す事ができそうだ。
そう思い、ジリジリと動いていたその時…
「オオオオオオオオ!!」
え?嘘だろ?
その咆哮って…まさか…熱線がくるのか?!顎無いのに!?
口元にエネルギーが集まって…間違いなくあれだわ…
アイツにもダメージ出るんじゃねぇのかこれ?
突然の咆哮にパニックを起こしそうになる。
「オ!!!」
顎を失った魔獣から放たれた熱線は、いわば砲身のない大砲と言おうか、発射台のないミサイルと言おうか…
とにかく無秩序な散弾のように周囲に発射された。
それは魔獣自身にも当たっており、まさに捨て身の攻撃であった。
「あっぢぃいいい!!いってぇえええぇ!!」
俺の悲鳴が町中に響いた。
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