幕間

ゼエゼエと荒い息遣いが聞こえる。


「グッハ!………いでで…身体…」


目を開けるとそこには何やら息を切らした疲労困憊のしょぼくれた魔女のような女性が…


「誰がしょぼくれた魔女だい!!」

「心を読むな!!いっでえ!!」


バチンとソルトさんに叩かれ、その衝撃でまたも全身に激痛が走る。

回復魔法だけでは不十分だったのだろう、身体中に薬草やら軟膏やら縫い傷やら、痛々しい事この上ない。


「本当に厄介だね…アンタのその【回復阻害】は…」

「毎度ご迷惑を…」

「本当だよ!!何人治癒師集めたと思ってんだい!!」

「ちょ…って事は…」

「借金………増えたからね」


何ということだ…

借金を減らす為に行ったはずなのに…逆に借金が増えてしまった…

まるで意味が分からない…


「いぎぎ…ところで…ラグナさんは?大丈夫だった?」


何より心配していた事を尋ねる。

本来なら俺が説明して、皆さんに分かっていただく予定だったのだが…思わぬハプニングで意識を失っていたのでそれが叶わなかったのだ。


「なんでアンタがドラゴンと一緒に帰って来るのさ…しかも黒焦げのアンタを抱えてるもんだからジェノなんかドラゴンに斬りかかる勢いだったんだよ…」

「それは本当に申し訳ない…」

「あのドラゴンが意思疎通できたからよかったようなものの…」


まさか無害なドラゴンがいるとは思わなかったのだろう。

そりゃそうだ、俺だって最初はそう思っていた。


「話の分かる御方で良かったよ、目立つってんで夜にでもまた来るって飛んでったよ」

「そか…じゃあきっと大空を満喫してるだろ…」


ラグナさんが自由に飛び回ってる姿を想像し、思わず笑みが溢れる。


「で…?」

「で?」

「何があったんだいって聞いてんだい!!モーリア邸のクラークと一緒にいたなんて話も出てるし!何があったのか説明してもらおうか!」

「分かってるよ、そんな鬼のような顔しなくても…」

「誰が鬼婆だい!」


それは言ってないだろうが。

迫力の前にツッコむことさえままならない。


「掃除が一段落した時の事なんだけど…」


俺はあの日起こった事をなるべく細かく話した。

クラークに依頼を持ち掛けられたこと。

その依頼は嘘で殺し屋に命を狙われたこと。

瀕死になりながらの洞窟崩落に、結界に閉じ込められたラグナさんのこと。


「まだ町の皆に何か危害がなくて良かった…でも俺が生きてるって知れたら…」

「とっくに知れ渡ってるだろうね、ドラゴンと一緒にご帰還じゃあ」

「目的はともかく…全て知ってる俺は向こうにとっても都合が悪いはずだ」

「だろうね…まぁ目的のほうもなんとなくはお察しさね」

「というと?」

「区画整理という名の領地拡大をしたいのさ奴等貴族は」

「それと俺に何の関係が?」


察しの悪い俺には全く繋がってこない。


「邪魔なのさ、アンタはまがりなりにもこの町じゃ英雄って事になっている」

「ふむ…」

「英雄が一緒に戦ってくれるとなれば町の人間も決起するかもしれない。理不尽な権力に立ち向かってくるかもしれない!そいつが怖いのさ」

「なるほど…」

「魔獣の大襲撃の混乱に乗じるつもりだったのかもしれないね…もっと多くの人間が死ぬ事を見越していた…」

「ふーむ…?」

「しかし大襲撃をアンタが止めちまった、しかも大した被害すら出さずに!生きるのを諦めていた貧民街の人間にまで活力を与えちまった!」

「………」

「計画を狂わされた私怨もあるかもしれないね」


まぁアタシは感謝してるんだけども、と小さな声で付け加える。


「なんにせよこのままだとアンタを狙って貴族連中が攻め込んできてもおかしくないだろうね」

「きっついな…」


何がきついって良くしてくれた皆に迷惑がかかるのが一番きつい。


「この町を出たら皆に危害は及ばないかな?」

「ないね」


ピシャリと断言される。


「アンタが生きて帰ってきた=アンタを狙っていたという事が町中にバレた。って事だからね」

「もうなりふり構わないわけか?」

「そういうこった」

「何とか俺だけで勘弁してもらうとかは…」

「バカ言うんじゃないよ、死に損ない」


俺の言葉は遮られ、ついでに罵声まで浴びせられた。


「そうだぞ、バカな事を言うな」


外からジェノがそう言いながら入ってくる。


「今この町はようやく一つになろうとしている、とはいえ貴族街の連中を除いてだがな」

「ジェノ…」

「その中心にいるのが君だ、君の実力を知る者も、知らない者も、皆が君に引っ張られている」

「言い過ぎだって」

「英雄という肩書はそれ程に大きいんだよ」


フフと笑う。


「【破傷風】はどうなのだ?進行してしまっているか?」

「わからんけど…たまに身体が動かしにくい時があるかもしれない」

「悠長にしてられんな」

「ところでアンタ、殺し屋と戦ったんだろ?何かステータスに変化はないのかい?何か成長したとか」

「なるほど、そういうのもあるのか…」


すぐにステータスを確認してみる。

耐久力という項目が40というえらい数字になっていた。

プロじゃないか!!いや何のプロと聞かれたら分からんが…

これは完全に打たれて斬られて燃やされて育ったな…


そして幸運はと言うと…111!


え!?なんで!?上がってる!ドラゴンと知り合ったからか!?凄いラッキーじゃないか!

よし!これはいいぞ!いい傾向だぞ!


不運370

非運230

悲運210


不幸系ステータスを見てガックリくる。

幸運10上がっても不幸30上がったら意味ないでしょ!!!

くそ…他になにか大きな変化は…剣術がなぜか少しずつ上がってるくらいか…俺何もできてないのにな…振り回されてただけなんだが…

ん?あれ?まだ下に項目が、こんなのあったっけ?

そう思いながら確認する。


「振り分け可能ポイントが20あります」


完全に失念していた!

忘れてはいけないものを忘れてしまっていた!

そうだ!自由に振り分けられるポイントだ!

どうする…幸運に全ツッパか…しかし…現状幸運は不運にかき消され意味がない気がするんだが…

今後襲ってくる殺し屋や貴族の事を考えるなら剣術か…いっそ耐久力をもっと増やすのもありかもしれん…

うーーん!うーーーん!!


「えーーーい!いったれーーー!!」


俺の唐突な叫びにソルトさんとジェノがビクリと身体を揺らす。


幸運131


やっちまった、これもうあとには引けないやつだから。

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