帰還!
「揺れるぞ、若いの」
ドラゴンがググと身体に力を込めると、その赤い身体にパチパチと火花のような、電流のようなものが走る。
「結界が弱まっているというのに…これが限界か…なんとも情けない…」
息を深く吸い込み、鋭い爪を床に食い込ませる。
まるでクラウチングスタートのような体勢を取ったかと思うと、目の前にいたはずのドラゴンが一瞬にしてその姿を消す。
瞬間、轟音をあげ後ろの岩壁の一部が弾け飛ぶ。
「うおお!なんだーー!?」
とんでもない速度でドラゴンが突進したのだ。
俺が切りつけても傷一つつかなかった壁は、同じ壁とは思えないほど簡単に砕ける。
その場所全体が揺れるほどの衝撃に立っていられないほどだ。
ギャリギャリと地面も削りながら元の位置に戻ったドラゴンが少し嬉しそうに言う。
「思いの外、結界の力が弱まっているな…これなら」
もう一度同じ体勢を取る。
先程よりも深く、深く身体を沈ませ、その力を蓄える。
「いけそうだぞ若いの」
バガアァア!!
まるで爆弾でも落ちたのかと思う程の衝撃。
壁だけでは飽き足らず天井までもがガラガラと崩落する。
ガンガンと俺の頭に破片が当たっているのはお約束だ。
「凄い!!凄すぎですよ!!」
身体の痛みも忘れて俺は叫ぶ。
「200年…ついにこの結界から…忌まわしい人間共、今こそ復讐の時だ!!」
「ええっ!?」
「なんてな、冗談だ」
「ちょ、本当にやめてくださいって…」
カカカと楽しそうに笑うドラゴン、これ本当は人間が化けてるとかじゃないのか?
「ところで若いの、名を何という?」
「あ、俺はジンです、遅くなってすみません」
「ふむ、我はラグナだ、身体の方は大丈夫か?」
「あんまり大丈夫じゃないんですけど…ちょっと色々な事が起こりすぎてそれどころじゃないというか…変な脳内麻薬が出まくっているというか…」
「脳内麻薬?」
「あー…いや忘れてください、ラグナさん…でいいですか?ラグナさんはこれからどうされるんですか?」
「特に決めてはおらんがな、まずは空を、そして…腹いっぱい肉でも食いたいところだな」
「……いいですね、俺もお供したいくらいだ」
「来ればいいではないか」
「そうですね、色々解決すれば、ぜひ」
「おっとスマンな、まずは町でその身体を治すんだな?」
「そうですね…何にせよ生きててよかった…」
安心したのか、また全身が痛み出す。
「結界はもうない、サッサとこんな辛気臭い所とはオサラバする事にしよう」
「賛成です」
「少々五月蝿いぞ、耳を塞いでおくといい」
「?」
バチバチとラグナさんの赤い身体が発光する。
その光が一際強く口に集まり…
ラグナさんの咆哮と共に閃光が吐き出された。
耳を劈(つんざ)くとはまさにこのことだ。
やや上方に向かって放たれた閃光は、山を貫き、ここから外まで続く長いトンネルを形成した。
ラグナさんの忠告があったにも関わらず、耳を塞いでいなかった俺は暫らく何も聞こえなくなってしまったが。
「はぇーーー…」
感嘆して言葉も出なかった。これがドラゴン…もし戦っていたらと思い身震いする。
「掴まれ、町は近いのか?」
「ラグナさんにしてみりゃどこでも目と鼻の先だと思いますよ」
「クハハ、違いない」
バサリと翼を広げたラグナさんの小脇に抱えられるような形で持ち上げられる。
おっかなびっくり落とされないようにその腕に両手を回し、しっかりしがみつく。
ドンっと地面を蹴ったと思うと…
もう目の間には空が広がっていた。
いつの間にか夜は明けており、眩しい太陽に目がチカチカする。
しかし眼下の景色は生まれて初めて目にする光景だった。
澄んだ空のもと、美しい緑に包まれた山々、麓にはバナンの町も見える。
それを見て思ったよりも遠くまで来ていた事に驚く。
「うわーーーーーー!凄ぇーーーーー!」
「うむ、空は良い!何年、何百年たっても…やはり美しい」
前世ではスモッグや排気ガスでこんなに澄んでいなかったような気がする。
そう思うとなぜか申し訳ない気持ちになった。
「あの町がそうだな」
「はい」
「では行くか、我の速さ見せてやろう!」
「いや…あんまり速くなくても…」
言い終わらないうちにゴッっと身体に重力がかかる。
「速っあ!あつ!!熱っ!!」
皆さんは空力加熱という奴を知っているだろうか?
熱の障壁とも呼ばれているらしいのだが、前世でもなかなか一般人には馴染みの無い言葉だろう。
ただ、なんとなく知ってる人も多いんではなかろうか?
超音速機、ジェット機等の機体でマッハを超える速度を出した時、周りの空気が急速に圧縮される断熱圧縮により空気が高温になるのだ。
………と、偉そうな事を言ってみたが俺もよくは分からない。
ただ、摩擦熱とは違うという事らしい。
俺もずっと摩擦熱みたいなもんだと思っていた。
断熱圧縮とやらの説明もしたいのだが、俺の知識ではうまく伝えられそうもないので今回のところは諦めてくれ。
まぁ簡単に言うと、とんでもない速さで移動すると、とんでもなく熱くなるって事だ。
「着いたぞー!ハハハ、調子に乗って行き過ぎてしまったな、やはり空は良い、な!ジン!…………ん?ジン?ジンーーー!!!」
腕の中でパチパチと燃えくすぶる俺を見てラグナさんが叫ぶ。
なんだなんだと町の人達が出てくるも、ラグナさんの姿を見て皆、一様に驚き慄(おのの)くばかりだ。
「ドラゴン!!なぜこんな所に…て!なぜそこにジンが!わぁ!!黒焦げではないか!!ちょ!!ソルトさん!ソルトさんを呼んでくれぇ!!」
そこに来たジェノの取り乱した声を聞きながら、俺は意識を手放すのだった…
全く、何度目だ意識失うの。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます