出会い

「ドラゴンや………」


なぜか関西弁が出てしまう。

眠っているのか目を閉じたままではあるが…

その姿はファンタジーの世界のドラゴンと呼ぶに相応しく、雄々しく、勇ましく、灼熱の赤を身に纏った…まさに空の王者!大いなる脅威!

その爪は空をも裂き、その咆哮はあらゆる生物を震え上がらせる!

凶暴な魔獣だと聞いている。

聞いてはいるが目を奪われてしまう。

それほどまでに目の前の生物は壮厳で、美しかった。


「かっけぇ…とはいえ…さすがに戦ってどうこうできる相手じゃないな…」


閉まった扉は当然のようにビクともしない。

扉やその横の岩壁を斬りつけてみるも傷一つつかない。

ただ硬いというわけではない、何かコーティングというか…そういう特殊な力で守られているような感じだ。

ただでさえ残り少ない体力を無駄遣いしてしまった事を悔いながら、キョロキョロと辺りを見回す。


「あれか…くそ…戦闘不可避か…こりゃ」


鎮座するドラゴンのさらに奥、そこに入ってきたのと同じ様な扉が見える。


「こっそり横通ったらバレないとかないかな…」


コソコソとドラゴンの横通り抜けようと試みるも…


「バレない訳がないだろう若いの」


ドラゴンに嗜(たしな)められる。

そうだよな、バレないわけがない。

ちょっと考え直そう、じゃあ何かでドラゴンの気を逸らして…………ん?


「しゃ…喋った?」

「正確には意思疎通の特殊能力だがな、人語を介しているわけではない」


そう言われてみると、なんというか耳で聞いているというよりは、全身で彼の意思を感じ取っているといった感じだ。

凄すぎる!俺は今ドラゴンと会話しているのだ!


「何をしに来た?望みは我の命か?」

「は!?いやいや何で俺が貴方の命を狙うんですか!?」

「ふむ?むしろそれ以外に我の前に現れた人族は見たことがないが…?」

「何か悪い事したんですか?どっかの町を壊滅させたとか…」

「人族にとっての悪い事が何かはわからんが、我は意味もなく何かを破壊する行為はせんよ」

「なら…人を喰ったとか…?」

「ハハハハハ、そんな小さな身体を喰っても腹の足しにならんな、まぁ襲ってくる奴等を返り討ちにくらいはしたが…」

「なら何で…命を狙われるんです?」

「その返り討ちの報復か…我の力を利用しようという画策か…」

「力の利用…」

「我の身体には強力な魔力が流れておる。そいつはどうも高く売れるようでな、牙や眼球、鱗や血液までもが何かの素材として金になるらしい」


ドラゴンはそう言って面白そうに笑うが、俺はむしろドキリとした。

そうなのだ、俺の【破傷風】の治療に必要なエルフの秘薬…それの材料にもドラゴンの牙が使われているとか言っていたような気がする。


「我の魔力を狙って様々な奴等が来たよ、人族、エルフ、ドワーフ…迎え撃つのにも飽き飽きしていたそんな折だ…人族の大群が我に挑んだのは…」

「………」

「長い戦いの末、奴等は我の力の根源である魔力を絶とうと、この魔力を遮断する結界内に我を転送した」

「なんかすいません…」

「フハハ、お前が謝る必要はなかろう……ただ奴等にも誤算があった…」

「誤算?」

「我は強かったのだ、たとえ魔力を封じられてもな」


フフンと得意気に鼻を鳴らす。


「そこから何度か挑んでくる事はあったが、我を倒せぬまま…次第にここへ来る人間もいなくなった…諦めたのか、我が死ぬまで待つと決めたか…」


懐かしそうに目を細め…


「この場所に閉じ込められてもう200年にはなる」

「200年!?」

「人族がそこまで長寿でないのは知っている…もう我を封じた奴等もこの世におらんだろう」

「貴方はこの先もこのままここに…?」

「いや…ここの結界も徐々に弱まっている…じきに結界を破壊して大空に帰る事ができそうだ」

「人間に復讐するつもりですか?こんな所に閉じ込められて憎いでしょうし…」


俺の質問に苦笑いのような表情を浮かべながら答える。

ドラゴンってこんなに表情豊かなんだ…と思ってしまう。


「なんの憎しみもないと言えば嘘になるが…封じた当人がいないのに誰に復讐するというのだ?我は虐殺がしたいわけではないのでな…」

「…」

「で?若いの、お前は何をしにここへ?」

「なんか…騙されて…連れてこられました…」


俺は一連の出来事をザッとではあるが話す。

聞きながらドラゴンは時折、楽しそうに身体を揺らす。


「その傷も殺されかけてついたものか?」

「ええ、死ぬかと思いました」

「だろうな、クカカ」

「それで…あの…俺は戻らないと駄目なんですが…通っていいですかね?」

「扉は開かんぞ」

「え?」

「ここは外からしか開かない、そういう結界だ」

「嘘でしょ?」

「嘘なものか、好きに試せばいい」


ドラゴンの後ろの扉飛び付き、押したり、引いたり、叩いたりしてみるも…

言葉通りその扉はピクリとも動かなかった。


「あと数年もすれば結界は綻びる、のんびり待つことだ」

「死んじゃうじゃないかーーー!!!!」


【破傷風】の前にこの傷で死んでしまう…

仮に生き延びても食うもんも飲むもんもないここでどうやって命を繋ぐのか…


「終わった…やはり…不運が…」

「ククク…しかし我より不運な奴がいるとはな」

「………貴方も身にかかる火の粉払ってただけですもんね…」

「クク…仕方ない…」


ムクリとドラゴンがその身体を起こす。


「何を…?」

「不幸仲間となれば…助けない訳にはいかぬだろう?」


ドラゴンは器用にニカッと笑って見せた。


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