ステータス確認の時間

ズル…ズル…

ガリ…ガリリ…


何かを引きずる音がする。

硬い…金属のような…それが近付いてくる。


ガリ…ギギギギ…


次第にその音は俺の耳元までやってくる。

なのに俺の身体は動かない。

やめてくれ、やめてくれ!


「やめてーーー!やだーーー!!」


ガバッと飛び起きる。

ああ、これはあれだ夢オチってやつだ。

あーびっくりした。


「ヤダーとか言っちゃったよ、なんだ今の夢」


そこで気付く、俺の部屋の隅に見慣れない「剣」が一本置いてある事に。


「なんだこりゃ……あ!」


見慣れないとは言ったものの、近くまで行くとそれが一度手にした事があるものだと分かる。

少し風変わりな片刃の剣、刃文(はもん)と言うのだろうか、それが角度によって様々な光を放つのだ。

そして刃の背の部分に一箇所、小指の先程の穴が開いている。

ストラップでも通す為なのか、ただのデザインなのか俺にはよく分からない。


「鬼と戦った時のやつか」


あの爆発に巻き込まれたのに傷一つついていない所を見ると、余程良い物なのかもしれない。


「誰かが持ってきてくれたのか…?でもまいったな…こいつは俺のじゃないし…」


手にとって2〜3回振ってみる。

前世では当然剣なんか持ったことすらない俺だが、なかなか様になっているんじゃないだろうか。

こう…武器を持つとやはり強くなったような気がするよな…男の子としては…

ハッ!!とりゃ!!

部屋にあった鏡の前でいくつかポーズを決めてみる。


「何やってんだいアンタは…」


呆れ顔のソルトさんが入口に立っていた。

くそっ、もっと早く声かけてくれよ…恥ずかしい…


「さぁ治療の時間だよ、横になりな」

「もう大丈夫な気もするけど…」


あの戦いから数日、ソルトさんは献身的に回復魔法をかけに来てくれる。


「【破傷風】の事もあるんだ、軽く考えるんじゃないよ」

「あざーーす!」


ソルトさんは机の上にあったリンゴをガブリと齧って治療を始める。

それジェノさんが俺に持ってきてくれたお見舞い品なんだけど…


「しかし本当に…回復魔法の効きが悪いね…」

「そうなの?もうダメージもそんなに無いんだけどな…」

「またどっかで変なもん貰ってきたんじゃないだろうね?」

「そんな何でもかんでも拾ってくる子供みたいな……」


ハタと思い出す


「なんか…剣…拾ったけど?」

「……………」

「……………」

「ちょっと…ステータス見てみな…」

「はい…」


剣術【右手】30

剣術【左手】25

剣術【両手】28

剣技【流星斬】


「おおお!めっちゃ高くなってる!剣士だろこれもう!なんか技も覚えてるっぽいし!!」

「それだけかい?」

「数値としては大きく変わってるのはそれくらいだけど……うわ!」

「どうした?」


状態異常

【破傷風】【回復阻害】【治癒阻害】【解呪阻害】【痛覚倍化】【人身御供】


「なんかめっちゃ増えてる…」

「何がさ?」

「状態異常…【回復阻害】【治癒阻害】【解呪阻害】【痛覚倍化】【人身御供】ってのがついてる…」

「回復魔法が効きにくいわけだ…アンタ本当によく生きてたね…」

「【人身御供】って何ですか?生贄にでもなるんですか?」

「いや…確かそいつは…魔獣や敵をおびき寄せやすくなるんだったんじゃないかね」

「なんでこれ!?何の嫌がらせ!?」

「その剣…アンタが持ってきたのかい?」

「いや…これは何か…今日気が付いたら部屋にあって…」

「呪いの装備じゃないのかいそれ…?」

「もっす」


なんだかよくわからない声が出てしまう。

いやいやいや、そんな事ある?この剣だってたまたま落ちてただけのやつだよ?

それが呪われてる装備品なんて…え?そんなに簡単にホイホイ呪われた装備って存在すんの?


「普通なら考えられないけどねぇ…」

「解呪は!?」

「アタシも簡単なものならできるけど…やってみようか?」

「やってみて!!」

「高いよ?」

「守銭奴!!!」


ソルトさんが俺と、俺の剣の手をかざし、ブツブツと呪文を詠唱する。

白い光がその手に宿った瞬間、バチッと何かに弾かれるように掻き消える。


「駄目だね」

「やっぱり?」

「ああ、間違いなくこの剣が呪われてる。状態異常もその呪いのせいだと思うよ」

「こんなに剣術上がってんのに?」

「呪いが強い程、能力補正も大きくなるからね」

「そんな…」


そこで「おや?」と思う。


「じゃああの不運の指輪は?強力な呪いなら何か良い効果があってもいいんじゃないのか?」

「………そういやそうだね、能力値に変化がなかったんなら…特殊効果みたいなものが付与されているのかも…」

「特殊効果?」

「凄く簡単に言うと、状態異常の逆みたいなもんさ、探してみな。」

「ふむ…どれどれ」


こういう時にステータスの項目の膨大さが災いする。

目を通したつもりでも見逃していたり、一度見たはずの項目も忘れてしまったり、そもそも把握できていない項目も山程ある。


「多すぎて目がね…シバシバすんのよ…」


ゆっくりゆっくりスクロールし、慎重に項目を探す。


特殊効果

【女神の加護】【勇気の欠片】【正念場】【剣戟】


あった。

でもなんだこりゃ、【女神の加護】は分かる、これはきっと幸運100の振り分けの事だろう。

あと【剣戟】もこの呪いの剣の特殊効果だろう、なんかカッコいい。

しかし【勇気の欠片】と【正念場】がよくわからん。ここに表記されてるって事はプラス補正なんだろうけど…

順番的にもこれが指輪の効果なんだろうか…?


「【勇気の欠片】【正念場】【剣戟】ってのがありましたね」


【女神の加護】については伏せて答える。



「【剣戟】ってのは剣の効果だろうね、アタシよりもジェノにでも聞いてみるといい。ただ…【勇気の欠片】と【正念場】ってのはねぇ…耳に馴染みは無いね」

「まぁ色んな人達にでも聞いてみますよ、悪いもんでもなさそうだし…」

「そうだね、悪いもんもいっぱいついてるけどね」


一言多いんだよ、この人は。


「気をつけるんだよ」

「え?何が?」

「能力や状態異常の事も勿論だけど…」

「そうだね…回復効きにくいのは怖いな…」

「アンタはあの大襲撃を退けた立役者って噂が出回ってる」

「は?」

「嫉妬や妬み、羨望や尊敬、計略に策謀…色んなもんがアンタ周りで渦巻いてる」

「なん…で」

「巻き込まれただけなのかもしれないし、アタシだってジェノだって出来る事は何でもする」

「………」

「だけど、アンタも決して気を抜かないでおくれ」


真っ直ぐな目でそう言われて、俺は事の重大さを悟る。


「ツイてない…」


そしてその言葉通り、俺はこの先もこの町の騒動に巻き込まれていくのだ。

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