俺VS鬼
「うわあああ!!」
投げられた俺は、大きく弧を描きながら魔獣の大群へと飛んでいく。
くそ、こんなすげー腕力を魔獣討伐に使わないのが不可解でならない!
無茶苦茶な体験だ。
「ジン!!」
前線で戦っているジェノさんが俺に気付いて叫ぶ。
下を見ると地面も見えない程の量の魔獣がひしめいていた。
「落下予測地点は…あの辺か…なんだありゃ…!くっそ、ツイてない…」
次第に緩やかになるスピードで、おおよその落下位置が分かってくる。
そこには周辺の魔獣の倍以上はあろうかと思われる巨躯をした魔獣が一体確認できた。
見た目は日本の昔話に登場する「鬼」と言えば分かりやすいだろうか、大きな角と牙を持ち、その眼光は鋭い。
そしてその手には太い棍棒の様な物が握られていた。
「オーガってやつか…?頼むぞ…気付くなよー…」
空の上で気配を殺す事に集中する。
どうせこのまま落下して大怪我するくらいなら、このデカいやつに一泡吹かせてやろうと思ったわけだ。
投げられても放すことの無かった剣を両手で握り直し、そのまま刃とは逆の背の部分に足をかける。
このまま落下すれば俺の全体重が乗った剣がアイツに直撃する…ハズだ。
「本当はこの状況でも剣を放さなかった俺を褒めて欲しいが…まぁそれは後にとっておこう…」
魔獣はどいつもこいつも上なんか気にしちゃいない。
大丈夫、この軌道なら…当たる!
ボンッ!!
その時、誰かが放った魔法が俺のすぐそばで爆発する。
当然のようにその方向を見上げる鬼とバッチリ目が合ってしまう。
「わーお…ツイてない…」
だが俺の落下は止まらないし、鬼にも俺を避ける程の余裕はない。
「どっちがツイてないか勝負といこうぜ!!」
鬼が咆哮を上げながら、持っている棍棒を振り上げる。
俺を乗せた剣はその棍棒をズガっと切り裂き、更には鬼の左腕と脇腹の一部を切り裂き…地面に刺さって停止した。
しかし俺に落下の衝撃が届く事はなかった。
「その図体で凄い瞬発力だね…」
なんせ鬼の残った右腕に掴まれちまってるんだから…
剣が棍棒に当たった事でほんの少し軌道が変わったからだろうか、それとも思いの外こいつが頑丈だったからだろうか。
「怒ってますよね?いや違うんですって…誤解が…」
言い終わらないうちに俺は地面に叩きつけられた。
「ばがっ!!ごふっ!!!」
さっき素直に落ちていたらよかったと思う程の衝撃だ。
どこか折れたのは間違い無さそうだし…昨日ぶりに口の中に鉄っぽい味が広がる。
「ツイてない勝負は俺の勝ちみたいだな…いやこりゃ負けって言ったほうがいいのかな…ゴホッ」
前世でよく転んだり、階段から落ちたりで、俺もそれなりに頑丈にはなっていたが…
これは初体験だ…
グググと起き上がろうとした所を鬼に踏みつけられる。
「ぎゃあ!!」
重いよ!くそったれ!漫画みたいに目ン玉飛び出るかと思ったわ!
おいおいおいおい…そんなぶっとい腕で殴られたら…無理だって…
鬼は、俺を踏みつけたまま渾身の力を込めて俺を殴ろうと拳を振り上げる。
踏みつけられ、意識も混濁する中…
「てぇーーーー!!!」
誰かの声と共に町の方から何かが飛んでくる。
「ヒュー…おい…まだ…ツイてない勝負は決着じゃないみたいだな…ゲッホ…」
俺達の周囲にドドドドっと降り注ぐ物がある。
大量の矢だ。
「ばっか…俺ごとじゃねーか…危ないだろうが!」
鬼は背中に幾本もの矢を受け、俺を踏みつけていた力が緩む。
矢は更に降り注ぎ、辺りの魔獣達にも深くダメージを与える。
激高した鬼が俺の事を無視して町の方角に向かおうとしたんだが…
ここから先がどうも俺にもよく分からない。
それでもいいか?
俺はチャンスと思ってズルズルと逃げ出したんだ、いやそりゃもうみっともなかったよ。芋虫みたいだったさ。
そん時に俺の足にも矢が刺さったのはハッキリ覚えてる。死ぬかと思ったもん。
んでだ、たまたま近くにあった木に…何ていうんだ?ウロ?あの木の幹とかにある空洞って言うのかな、分かるよな?
あそこに身を隠したんだ。
ようやく一息つけた俺はポーションを貰っていた事を思い出したんだよ。
でもどこを探しても無いんだ、きっと落としちまったんだろうなって、ツイてないなって思ってた。
もう矢の攻撃は終わっていたんだが、まだ魔獣の数は思う程減っていなかった。
辺りを見回すと魔獣の死体に紛れて俺が落としたであろうポーションを発見したんだ…
なんとか回収したかったんだ、身体もボロボロだったしな。
だからずっとそれの様子を見ていたんだが…
そのポーションをな、さっきの鬼が踏んづけたんだよ。
あー、勿体ねえ!なんて思った瞬間だったね。
辺り一面が真っ白になって…
耳も聞こえなくなって…
熱っ!って思ったくらいで意識が無くなったんだ。
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