開戦!

人々が逃げ惑う、向かう先は俺とは逆方向の避難所だろう。

という事は、逆に人が来る方向に行けば襲撃地点に行けるって事じゃないのか?

フッと息を吐いて町の西?になるのかな?に向かって再度走り出す。


「ジン!」


ジン…あ、俺か!

前世では苗字でしか呼ばれることがなかったので、一瞬誰のことか分からなかった。

ここで俺の事を知る人間はごくごく少数だが…


「何をしてる!早く避難所へ向かうんだ!」


そこには昨日顔を合わせたばかりの女性がいた。


「ジェノさん!」

「私は魔物の侵入を防ぐ!早く避難所へ!」

「俺も行きます!」

「駄目だ!君は戦えないのだろう!?」

「だとしても…」

「一匹や二匹じゃないんだぞ!私だってブランクがある!君を守る余裕すらないだろう!」

「たった一匹でも俺が倒せたら意味があるでしょう!」


言いにくそうに彼女が叫ぶ。


「それに君は…君は!不運なんだぞ!それも尋常でない程の!」


自分のせいだと思ってるんだろう…そんなはずないのに…


「ここでこんなに頼りになるジェノさんと会えた俺が不運な訳ないでしょう!!」


ニカッと笑って見せると、彼女はため息を吐きながら眉間を押さえる。


「聞く気はないんだな?」

「残念ながら…」

「なら…こいつは道具屋からくすねた…もといお借りした上級ポーションだ、持っておいてくれ」

「あ、ああ…!」


液体の入った瓶を受け取り、それをポケットにねじこむ。


「それを使うような事があったらすぐ撤退する事!それは守れる?」

「勿論!俺は死にに行く訳ではないからね、守りに行くんだ」

「なら仕方無い…男の覚悟を無碍にはできんからな!」


フハハと声をあげて笑い合う。


「幸いにも魔物の軍勢は一方向、西から向かって来ている。奴ら馬鹿じゃないからね、分が悪いと分かれば自ずと退いていく」

「そいつを悟らせるにはどうすれば…?」

「とにかく倒しまくる事だ、倒しまくってここは落とせないと分からせるのみだ!」


ゾッとしないね、だがまぁ話は単純か

死なない様に気をつけながら、敵を倒しまくる。


町の西に着くと幾人かの冒険者、町の腕自慢等、怖いもの知らず達が集まっていた。


「おぉ…これは…頼もしい…この町だって捨てたもんじゃないじゃないか」

「金目当てのゴロツキもいるが…今はありがたいな」

「やばいやばい、なんか自分まで強くなったような気になりそうだ」


なんて事を話していると、ドドドドという地響きが聞こえてくる。

音の方を見ると無数の影、なるほどこれは大群だ。

その地響きはあっという間に距離を詰め…


「くるぞ!」


誰かがそう叫び空気が変わる。


「先陣を切るぞ!!」


ジェノさんが大量の魔物の群れに向かって飛び込む。

その勇気だけでも賞賛に値するのだが。

ザクザクと肉が引き裂かれる音がしたと思うと、先頭にいた十数匹の魔物がドサドサと動きを止める。


「おおおお!やるじゃねーか!現役復帰は伊達じゃねーな!」

「不幸姫に続け!」

「負けてられんな!大物はいただくぞ!!」


好き勝手な事を言いながら他の奴等も次々に参戦する。

バガッと何かが爆ぜるような音と共に、奥の魔物が火を吹いて吹き飛ぶ。

なるほどこれが魔法か!

よーーーし俺も!


「やあああああ!!」


剣を振り上げて魔物に突撃する!

そう!俺が目をつけたのはアイツ!

ツノのついたでかいミミズだ!

あちこちに湧いてやがる!こういう雑魚処理も大事なはずだからな!


「おりゃ!おりゃ!よくもあの時は!」


やはり剣があるだけで全然違う!

こんな奴に苦戦したなんて全く恥ずかしい話だ。

大型の魔物にはさすがに恐くて近寄れないが…

後方支援のつもりでチクチク戦っていると、前からバタバタといかにもガラの悪そうな連中が退却してくる。

早いな、退却早いな君達。


「くっそう!こんなに強ぇとは!」

「命あっての物種だ!こんなとこオサラバしようぜ!」

「だな、だがこっから避難所まで逃げれるか!?」

「あいつらが勝手に時間稼ぎしてくれるだろうが…」


チラリと俺の方を見る。

あーーこれ駄目だ、嫌な予感しかしないやつだ…


「やめろって!俺逃げないから!本当にお願い!」

「うるせえな、逃げないならどうせ死ぬんだから、少しは役に立って死にやがれ」

「清々しい程のクズだねあんた達!!」


ステータス的に腕力50はありそうなゴツい奴に掴まれた俺は…


「俺等が逃げる時間を少しでも稼いでくれよ!」

「マジでか!やめ………!!」


そのまま魔物の軍勢目掛けてぶん投げられたのだった。


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