能力アップ…

「どうなっとるんじゃーーーい!!!」

「あ…あれ?おかしいねぇ…」


俺は自分の指に吸い付いたように離れない指輪をソルトさん、いや今はもう婆さんと呼ばせて貰う!の前でブンブン振りながら叫ぶ。


「あ…あの…だな」

「装備の呪いは装備に戻るんじゃないんですかーーー!?」

「待ちなって!アタシもそのなんだ…ねぇ?実際の譲渡を見たことがないもんだから…」


可哀想に、本当は大喜びしたいはずのジェノさんはオロオロするばかりだ。

だけど今はちょっと待っていて欲しい。

この婆さんどうしてくれようか。


「アタシの取り分は1割でいいよ!ね?アンタ大儲け!だろ?」

「金で済むならこのネーチャンがこんなに悩むもんかい!!つーかまだ1割取る気なのが感心するわ!!」

「ネーチャン…」

「騙された!!これ騙されたやつ!!不運だけじゃなく養分まで上がったんじゃねーの!?」

「いや騙す気があったわけじゃないから…それは大丈夫だと…」

「わああああーーーー!!」


ひとしきり叫んで、ゼエゼエと息を切っている俺にジェノさんが恐る恐る話しかけてきた。


「その…とてもとても…本当に言葉では言い表せない程に感謝しているんだが…申し訳ない…」


その言葉に俺はとびっきりの笑顔で応える。


「いいんですよ、悪いのはこの婆さんですから」

「しかしだな…」

「ジェノさんはせっかく呪いから解放されたんだ…腐らずに、誰でもいいから信用できる人間を見つけて、真っ直ぐ進んで欲しい」

「しかし君が…!」

「不幸は馴れてますからね、本当に気にしないでください。むしろ俺でよかったですよ、まそこの婆さんでもよかったんですけど」

「婆さん婆さんて!そこまで老いとらんわ!」

「いいのか?本当に…」

「はい、あ!でも1つお願いしてもいいですか?」

「ああ、勿論だ!何でも言ってくれ!倍の料金でも構わない!」

「信用できる仲間を見つけて、また冒険をして…エルフの秘薬を手に入れて…それを俺に売ってください」


ポカンとするジェノさんを見ながら思う。

何も自己犠牲でカッコつけたわけではない、むしろ自己保身アリアリだ。

自分の生存確率を少しでも上げる為の足掻きだ。


「冗談ではないんだな?」

「本気も本気です、俺も必死ですから」

「エルフの秘薬か…ふふ、なかなかの高難易度だ…!」

「できれば早めで…」

「また難しい事を言ってくれる…だが恩人の頼みを断るわけにもいくまい」

「では契約成立です」

「ああ契約成立だ!」


俺が差し出した手をなんの躊躇もなく握りしめてくれる。


「本当に世話になった、落としたと思っていた金も指輪の解除と同時に見つけてな…約束の金も今払えそうだ…それと…こいつは何かの役に立つかもしれない…君に貰って欲しい」


そう言ってジェノさんは報酬と、一枚の大きなコインを取り出す。


「幸運のコインと呼ばれる物だ、ステータスには影響がなかったから…眉唾物かもしれんが…君なら何か効果を発揮できるかもしれない」

「いいんですか?」

「ああ、君に貰って欲しいんだ」

「分かりました、ありがとうございます」

「こちらのセリフだ、本当にありがとう」


その後ジェノさんはその姿が見えなくなるまで、何度もこちらを振り返りながら去っていった。


「で…?」

「ん?」

「小首をかしげても駄目!!」

「許しておくれよぉ!本当に文献にはそう書いてたんだよぉ!アタシも騙されたのさーー!」

「まぁ…言ってもどうにもならないでしょうから…もういいですけど…」


ハァーーーーとでかいため息をつきながら、ステータス画面を確認してみる。



幸運101


不運360

非運220

悲運200



上がり幅!!呪いが強力すぎるだろ!!

指輪1つで不運160に非運20って!

不幸のインフレが過ぎるんだが…

なんか幸運1だけ上がってるけど…コインかな?それとも良い人たちとの出会いかな?

なんにしても超焼け石に水だわ…


「おや!」


ソルトさんが嬉しそうな声を上げる。


「あの子800Gも置いてったよ!色を付けてくれたみたいだ!よかったねぇ!」

「………」

「じゃあアタシの取り分で300は貰っておくよ」

「………」

「いやーアンタもバジとルビィに借りを返せるし、本当によかった!」

「………」

「目が怖いよ?」

「1割って言ってなかったですか?」

「そうだっけ?」

「はぁ…」

「まぁまぁ!アンタも今日は疲れたろ?うちも店じまいにするから!宿にでも行ってゆっくり休んでおいでよ!ね!そこの角に宿はあるから!はい!お疲れ様ー!!」


そう言って俺を強引に店から追い出す。

なんだろうこのモヤモヤは。

けれどどこか憎めない部分もあるのだ、不思議な人柄の婆さんだ…


すぐ近くに宿は見つかった。

一泊30Gらしいがやはり貨幣価値がよくわからない。

個室で飯付きらしいからさらに驚きだ。安いよな?

部屋につくなりバタンとベッドに身を放り出す。

なぜか木彫りの置物が枕元に置いてあったらしくそれで頭を強打する。

痛みに悶えながら横になると、すぐに睡魔がやってきた。なんだかんだで疲れ切っていたんだろう。


「運だけで成り上がる幸福人生…か」


第二の人生は真逆にむかっているわけだが…

いつか逆転できるんだろうか…

割り振れるポイントを全て幸運に振ればいいのか…?

不運と相殺できるだけポイントがあるんだろうか…?


そんな事を考えながらいつしか俺は眠りにつくのであった。

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