稼ごう!

「譲渡…ですか?」

「こいつの数値が高い人間はなかなかいないよ、アンタが相当なお人好しか余程の不幸体質か」


面白そうにカカカと笑う。

だが内心俺はヒヤヒヤしていたが…


「どういった能力なんでしょうか?」

「本当に何も知らないんだね」

「あ、はあ、機会がなかったもので…」

「譲渡と言えば、いかにもアンタが何かを相手に譲り渡すもんかと思うだろうが…実際のところは全くの逆さね」

「逆ってことは?譲渡される側ですか?」

「そうだね、もっとしっくりくる言い方をすれば…肩代わりって感じだね」

「肩代わり…」


「こいつは他人のマイナスステータスや呪いなんかをあんたが替わりに引き受けられるって代物さ」


「いらねぇーーーーー!!!」

「うるさいねぇ、ステータスが成長するのは知ってるかい?」

「それは…でも自分で好きに振り分けられるんじゃないんですか?」

「勿論そういうポイントもある、けどそれとは別に勝手に育つ能力もあるのさ」

「そんな馬鹿な…」

「馬鹿なもんかい、あんたが一生懸命に剣の練習をして、少しも成長しなかったらおかしいだろうが」

「うぐっ!」

「もっと言えば成長と共に伸びるステータスだってあるだろ、身長、体重、握力や腕力だって子供と大人じゃ違ってくる」

「うぐぐっ!!」

「それと一緒さ、数をこなせば数値は上がる、もちろん良い能力も、悪い能力もね」


ゾッとした

つまりその理論で言うと、俺の不幸は

不幸が続けば続く程、さらに不幸のパワーが上がるって事になるからだ。


「んでこの譲渡だが、誰かを庇ってダメージを受けたり、他人の呪いを身代わりした時に成長する、ただし!」

「ゴクリ…」

「詐欺や計略で騙された時にはその対象にならない!だからお人好しのステータスなのさ」


バンバンと俺の背中を叩きながら、どこか嬉しそうにそう語る。

だが前世で身に覚えがありすぎる俺は笑えなかった。

痴漢と間違えられてるおじさんを庇って自分が痴漢扱いされた事。

躓いて転けそうなおばあさんを支えたら、痴漢扱いされた上に盛大に転び足を折った事。

女のコが落とした財布を拾ったら痴漢扱いされ、あげくストーカーとして通報されたり…

こうして思い返すとめっちゃ痴漢扱いされてるな俺、これステータスに「痴漢」があったらやばかったんじゃなかろうか。


「ちなみに詐欺で騙された場合は「養分」のステータスが上がるよ」

「なんだよその悲しくなるステータスは…」

「カカッ、まぁ聞きな、アンタのその譲渡のステータス、その数値ならかなり上級の呪いでもそも身に引き取る事ができる!解呪と言っても遜色無い程さ!」

「いや…解呪も何も…」

「そう、普通の解呪とはまるっきり違う、アンタがその呪いを引き受けなきゃ駄目だからね、あくまで肩代わりなんだから」

「じゃあ意味ないんじゃ…」

「聞きなって、これには1つだけ抜け道があるんだ!」


お!そういう裏ワザ的なのを待ってたんですよ!


「人に宿る呪い、これは譲渡するとアンタがそのまま受け取るしかないわけだ」

「ふむふむ」

「だが装備に宿る呪い!これは譲渡の場合特別な対応があるのさ!」


興奮して喋るソルトさんを見るに、本当にこの世界での譲渡は数が少ないのだなと思う。


「呪われた装備を身に着けるとそいつが外せなくなり、その呪いを着用した者が受ける」

「ふむ」

「高位の治癒所や教会で呪いを解いた場合、装備が外せるようになり、その呪いから解放される」

「ふむ」

「そして呪いは再度装備に宿り、呪われた装備に戻る」

「ふむ…あ!」

「そう、装備の呪いはあくまで装備に宿るのさ!つまりアンタが一旦呪いを引き受け、装備を外しさえすればまた呪いは装備に戻るってわけだ!」

「おおーーーー!!」


凄い!これは本当に裏ワザっぽいぞ!


「しかも解呪は高額!装備限定とはいえ少し値段を下げればここでもかなり稼ぎが見込めるよ!」

「すげーーー!すげーよソルトさん!」


そこからの行動は早かった。

ソルトさんが一人、装備の呪いで困っている人に心当たりがあるらしく、すぐ連絡を取る。

その間に俺はソルトさんの家のあった治癒師の服に着替える。

ちなみにこいつは50Gらしい…また借金が増えたが背に腹は代えられない。


小一時間程しただろうか

外から騒がしい音が聞こえてくる。


「あいた!また転んだ!くそ!解呪の為のお金も落とすし!くそ!」


そしてバタバタと入ってきたのは

冒険者なのだろう、ルビィとは真逆、動きやすそうな黒い鎧に身を包んだ女だった。

その髪は肩程の長さだが美しい赤に染まっており、鎧とのコントラストと言うのだろうか…とても良く映えていた。


「来たね、不幸姫」


その名を聞いてドキリとした。

一瞬、自分の事かと思ったがそうではないらしい。


「解呪のアテができたらしいな、支払いは後払いで頼む!来る途中にどこかに落としたらしい」


忌々しそうにそう言う彼女はそれでも尚気品があり…

こりゃ確かに姫だ…と納得したのである。


「構わないよ、アンタが支払いを渋るとは思わないしね」

「助かる、それでいかほどだ?」

「そうだね、厄介な上に強力な厄災のリングだ…成功報酬で500、いや700は欲しいね」

「構わん、教会でも解呪できなかった代物だ…こいつが外れるなら1000Gでも安い物だ」


なんか相場とか、こっちのお金の価値はまだ分からないんだが、俺にかかった治癒代が200Gだった事を考えると、とてつもなく高額に聞こえるな。


「教会でも駄目だったのかい…」

「ああ、後は大聖堂に行くくらいだったが…ワラにもすがりたい、なんとか頼む」

「任せな、うちの新入りならきっとうまくいくさね」

「君が…?」


少し訝しげな視線を投げかけられるが、仕方無いだろう。


「ジンと言います!精一杯やります!」

「ふっ…すまなかった、気負わなくていい。頼む。私はジェノだ。」


ペコリと頭を下げられる。

俺がこの世界に来てから出会う人間は良い人ばかりだ。幸運100のおかげかもしれない。

ならその幸運でまずはこの依頼を成功させよう…


「どうすればいいんですか?」


とはいえよくやり方が分からないのでヒソヒソとソルトさんに尋ねる。


「譲渡が発動する事を祈りながら、受け入れる事だけを考えな、装備に手をかざすとかあるだろ?」

「アンタもわかんないんじゃないの!?」


だがそれくらいしか出来る事もない…

言われたままにジェノさんの呪われた装備、厄災のリングとやらに手をかざす。

少々待ってみるもうんともすんとも…何も起こらない…


「こいつは私が昔一緒にいたパーティから貰ったものでな」


ポツリとジェノさんが語りだす。


「皆とうまくやっていたつもりだったんだが…私の能力だけが皆より高くなってしまったんだ…」

「成長速度に差があるのは当然さね」

「うまくやっていたつもりだったんだ…私はな…だがその格差をよく思わなかったメンバーがいてな…」

「嫉妬だね、同じパーティでみっともない」

「こいつは不運を上げる指輪だ…それからの私は運に見放され…常に死の危険が纏わりつく…当然組んでくれる人間もいなくなり…まともにダンジョンも行けずに第一線から退かざるをえなかった…」


ドクンと心臓が跳ねる


「もう一度…目指してみたかったんだがな…冒険者の頂上を」


気がつけば俺はジェノさんの手を握っていた、包み込むように。

この人の気持ちが痛い程分かる。俺もそうだったから。

不幸に振り回されて、色んなものを諦めて…そんな悲しい思いは誰もしなくていいはずなのに…



パアァっと俺とジェノさんの手が光った気がした。



そして次の瞬間

ジェノさんの指から指輪が抜けて…






そのまま俺の指にスポンとはまったのである。





「ババアーーーー!!話が違うじゃねーーーかーーーーーー!!!」



俺の咆哮が辺りに響いた。

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