俺の能力

意気揚々と出発する二人の背中を見送って

ちょっとした疎外感を感じながらひとりごちる。


「そんな顔するんじゃないよ、辛気臭い」


店主が見かねて声をかけてくれる。


「いやー…俺ずっと転校…あー…1つの場所にいなかったもんで友達とかもできなかったから、ああいうの羨ましいなぁって」

「へえ、珍しい、このご時世に」

「珍しいですか?」

「そりゃあね、町の外は魔物が溢れて危険だし、商人だって行き来はしても拠点を動かす事なんかめったにないよ」

「両親を亡くしてからたらい回しだったもんで…」

「どこの国か知らないけどまだ幸せなほうだね、この国にゃそのまま捨てられて、生きる術もないまま死んでいく子供も山程いる」

「本当ですか!?この町なんか活気があるように見えましたが…」

「この町は人の流れが多いからね、商人や冒険者も多いから活気があるのは違いないよ。だけど通り一本外れただけでも貧しい人達や悪党どもはわんさかいるよ」

「…そうなんですか」


ポンと頭に手を乗せられる。

その手に魔力はこもっていないが、温かい物だった。


「まぁアンタが気にする事じゃないよ」

「そうなんですが…」

「そんな事よりアンタどうすんだい?」

「そうなんですよね…」


そうなのだ、当面の問題はお金の問題である。

いや勿論【破傷風】の事もあるのだが、今は何をすればいいのか皆目見当もつかない状況なのだ。

となれば、あの二人を信じて、帰ってきた時にこの大きすぎる借りを倍にして返せるくらいにはなっておきたい!


「お金ってどうやって稼げます?」


バカみたいな質問をしているがちょっと待ってくれ。

分かってる、働けばいいのだ、それは当然分かってる。

ただ今の状況で自分が何をできるのか、そういった事が全くわからないのだ。

職安のような物があればそこを尋ねるが、そんなものがあるかすら分からないのだ。

故にこんなバカ丸出しの質問になってしまうのは仕方ないのではなかろうか!?


「方法はそりゃ色々あるけどね、商人や鍛冶屋、アイツらみたいに冒険者もそうさ」

「なるほど…」

「ただ何をするにも適性ってのがあるさね、アンタ何ができるんだい?」

「俺は…」


何ができるんだろうか?

前世では特筆して何かに秀でていたわけじゃないと思う。不運を除いてだが。

本当に平均的な能力しかないんじゃなかろうか…

2浪して大学を卒業し、それなりの企業に勤めてまだ1年と少しが過ぎた程度だった。

やはりそこでも不運のせいで他人に距離は取られ、積極的に他人と関わる事もやめてしまった。


「何ができるんだろう…」


やれやれと言った感じで店主が首を振る。


「アンタ、そういや名前は?」

「あ、葛西 仁と言います、すいません自己紹介が遅れまして」

「カサイジン?変わった名前だね」

「あーいや仁です、ジンと言います」

「なるほど、ジンね、アタシはソルト改めて宜しくね」


店主はソルトさんと言うらしい

出会った人達の名を見るに苗字のような物は無いのかもしれない。

ひとまずはこちらの世界に合わせてジンと名乗る事にしよう。


「得意な事はないのかい?」

「うーーん…人並みだと思うんですが…」

「ステータスはちゃんと確認してるのかい?」

「ステータス!」


言われてようやくその存在を思い出す。

確かにあれだけ細分化されていれば人より優れた項目があってもおかしくはない!


「ちょっと待ってくださいね!確認してみます!」


そう言って俺はさっそく自分のステータスを確認する。

思えばちゃんと自分の能力を見るのはこれが初めてだ。

ステータス画面を開くと相変わらずの項目の多さに目眩がしそうになる。

とにかく項目が多すぎるのでここでは重要そうな項目やポイントの高い項目を見てみよう。


腕力や脚力といった項目はおおよそ10〜15程度

これは成人男性の平均値と思ってよさそうだ、バジやルビィの数値を聞いてみたい。冒険者になるにはどれくらい必要なのだろうか。


魔力や剣術、前世で必要なかった項目に関してはそれより低く、おおよそ6〜8程度しかなかった。

ちなみにソルトさんの治癒は魔力【光】らしく、数値は50超えなんだとか。


50を超えるとそれを職業にできるくらいなのか、だとしたら幸運100というのは本来ならとんでもないんじゃないのか?

俺の場合はもっととんでもないものがあるわけだが…

あ、ちなみに不運系のステータスはさすがに隠している…もしそれでまた人から避けられたら…そう思うと恐くて言い出せなかった。


他に何かないかと目を凝らしてみるも

見つけたのは譲渡30というよくわからない項目だった。


「譲渡が高いのかい、そいつはいいじゃないか」


ニヤリと笑うソルトさんを見て、なにやら不運の予感がするのだった。

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