状態異常
町に着き、真っ直ぐ連れてこられたのは
「治癒所」と書かれた耳覚えの無い場所だった。
とはいえ字を見れば何をしてくれる場所かは一目瞭然であるが。
「こりゃ深いね、200Gは見てもらうよ」
恐らく俺の傷の治療にかかる金額なのだろう。
そう言いながら店の主人なのだろうか、初老の女性が俺の傷を見やる。
「すいません、生憎…持ち合わせが…」
泣きそうになりながら俺は答える。
金が無くて見殺しにされるのは勘弁願いたい…
「構わねえから治してやってくれ」
「っほ、上薬草まで使ってやったのかい、奮発したね。」
バジと店主の会話から、俺の傷口に詰めてくれた薬草も決して安い物じゃ無い事が伺える。
「まぁアンタがいいならそれでいいさね、それじゃあ治すよ。ボウヤ、アンタ運がよかったね」
運が良かったんだろうか?
俺のステータスを見る限りそうは思えないのだが…
というよりは運が良い以上に運が悪いのだが…
店の主人が俺の傷口に手をかざしながら、ブツブツと何かを呟く。
傷口の辺りが温かい光に包まれると同時に傷の痛みが和らぐのが分かった。
更には、チクチクとした痛みを伴いながら腹の傷が塞がっていく。
こりゃ病院いらずだ、凄いぞ!魔法!
ものの5分でさっきまで腹に開いていた穴が塞がった。
おまけに身体中の打撲や擦り傷なんかも無くなっている。
「凄い…本当にありがとうございます!」
「気分爽快だろ?だが礼はそこの二人に言いな」
ニヤっと笑いながら店主が顎で後ろの二人を指す。
「本当に助かりました…何やら高い薬草まで使って頂いたみたいで…」
「なーに目の前で死なれちゃかなわないからな!気にするな!」
「でも貴方も気をつけないと駄目よ?たまたま私達が通りかかったからよかったようなものの…」
「はい…身に沁みております…」
「まぁまぁ、ルビィも、昔は無鉄砲だったんだし!」
「今関係ないでしょ!」
「改めて本当に助かりました、ありがとうございます。このお礼は必ずします。お金も…今は目処が立っていないですが必ず返します!」
「おや?」
俺の言葉の途中で店主の声が響く。
「どうも状態異常にもかかってるみたいだね、アンタ」
「状態異常…ですか?」
「あー、角ミミズに襲われたって言ってたな、じゃあ【泥】の状態異常じゃないか?」
「そんなのがあるんですか?」
「ああ、そいつになると速度が普段より下がっちまうんだ、ステータス画面で確認できるから見てみるといい」
「治すなら別途でいただくからね!」
店主の言葉に苦笑いしながらステータス画面を確認する。
状態異常まで表示されるのは便利だな、誤診が無いから治療を間違える事もないし…
どれどれ…あ、あった。
【破傷風】
「死ぬやつ」
いやおかしいだろ、状態異常って【痺れ】とか【毒】とかじゃねぇの!?
状態異常じゃねぇだろこんなもん、病名じゃねぇか!ファンタジーで見たことねぇわ!!
抗生物質で治るんだっけか…あんのかそんなもん?青カビから採れるくらいの知識しかねぇわ!
おかしい!バランスがおかしい!!
あ!!!でも魔法があるのか!治癒魔法で治して貰ったらいいのか!
「あのー…【破傷風】ってなってるんですけど…治りますかね?」
恐る恐るたずねてみる。
「【破傷風】?なんだいそりゃ聞いたことないね」
「俺も初耳だな、どんな異常なんだ?」
「私は聞いたことがあるな」
お!さすがルビィさん!
「レア状態異常でかなり凶悪な物らしい…放置すれば遅くても2週間ほどで死んでしまう。魔法は効かず、唯一の治療法がエルフの里の秘薬だとか…」
「エルフの秘薬か…確かユグドラシルの根元から採られる樹液と様々な素材を掛け合わした霊薬らしいね…」
あ、駄目だこれ、どんどん話がでかくなるやつだわ。
「その素材の中にはレッドドラゴンの牙やキマイラの鱗なんかもあるらしい…」
「さすがにどうにもならないねぇ…」
ほらな?
よしわかった、やっぱり無理なんだな。
俺が、超絶不運な俺がラッキー人生を歩もうと思ったのが間違いなんだな。
「燃えるな」
「え?」
ギラギラとした眼つきのバジと、その隣で頭を抱えるルビィ。
「冒険者として未知に挑む誉れ!これで燃えない男がいるか?いやいない!」
「私は女なんだが?」
「かたいことを言うな!お前だってでかい稼ぎが欲しいと言ってただろうが!」
「それとこれとは…まぁ…仕方あるまい、見捨てるのも寝覚めが悪そうだ」
「素直じゃないな!眼の奥はゴウゴウと燃えているくせにな!」
「単細胞と一緒にするな」
あれ?これ誰が主人公なの?
二人がかっこよすぎて泣いちゃいそうなんだけど…
俺も…こんな風に自分の不幸を嘆くだけじゃない、人の為に動ける人間に…
「お…俺も一緒に…」
「「駄目だ!」」
即答で断られた。
いやまぁわかるんだけど、わかるんだけどね。
駄目だなー俺、迷惑しかかけてねぇや…
「角ミミズに苦戦しているようじゃさすがにな…危険な道のりなんだ」
「ああ、だが貴方にしかできない事もある、腐らずに待っていて欲しい」
「信じて待っていてくれる奴がいるというだけで俺達は戦える!」
二人が眩しすぎてもうね…
俺はただひたすらに、自分の不甲斐なさを噛みしめるばかりだった。
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