町へ

「あ…あ…」


口を金魚のようにパクパクさせながら自分のステータスを再度覗き込む。

見間違いや錯覚なんかではない、確かに記述されている。


幸運100


それは問題無い、いや問題無いわけでも無いな…

冷静に考えたらこれ俺の前世では幸運ステータスが0だったって事にならないか?

そんな悲しい事ある?

まぁそれは置いといてだ…幸運にポイントが振り分けられているのは間違い無いからな…うん…そう…泣いてないよ。


とにかく問題はその後のステータスだ。


不運200

非運200

悲運200


なんだこれ?

確かにこれだけじゃなく色々と細分化されまくってるステータスではあるが…

これはさすがに詐欺と言わざるをえないのではないか?

つーかなんで幸運関連は1つしか項目がないのに、不運関連は3つも項目があるんだよ!

開運とかラックとかでバランス取れよ!おかしいだろが!


あー駄目だ、クラクラしてきた…

そうだ…腹にも穴開いてるんだ…

くそ…まずは町だ…

とにかくあそこまで行かないとこのままじゃ野垂れ死にだからな…

なんで来て早々にここまで瀕死にならないといけないんだ…

そもそもこんな危険な生物がいるなら町からのスタートでもよかっただろうが…

駄目だ、今はちょっと駄目だ、文句しか出てこないわ。


「大丈夫か?」


俯きながら歩くせいで、まともに周りも見えてなかった俺にそんな声がかけられる。


「見ない顔だが…助けがいるか?」

「いや、いるだろどう見ても」


見上げると、そこには2人の男女が立っていた。

鎧、と呼ぶには簡素すぎるか、胸当てと肩当てが一体化したような物を身に着けた、逞しいがどこか抜けたような印象がある男。

そしてその隣には、こちらは鎧と呼んでなんら遜色ないような、銀の甲冑にその身を包んだ、ロングヘアーの凛とした女。


ステータスに「魔力」や「剣術」があったので薄々は予感していたが、二人の格好を見て確信する。

やはりこの世界は前世で言う所のファンタジー小説やゲームによく似た世界なんだと。


「あんまり大丈夫じゃないです…」

「だろうな、えらく変わった…しかもそんな軽装で何をしてたんだ?」


男が当然の疑問を投げかけながら近づく。

ゴソゴソと荷物から何かを取り出しているがそれが何かは俺には皆目検討もつかない。

ただ言葉が通じるのは心底ありがたかった。


「いやそれが…何て説明したらいいのやら…」

「痛いぞ」

「え?」


男は俺の言葉にあまり興味がないのか、それだけ言うと取り出した「何か」を俺の傷口に塗り込んだ。


「いっぎゃああああ!」

「男だろ、我慢しろ」


どうも男が痛みを我慢しなきゃならないのは万国共通らしい。

だけど痛いもんは痛い。そもそも前世でこんな怪我をする事はめったになかったんだから。


「血止めの薬草だ、傷に詰め込んだ。応急処置ではあるが町でしっかり治療受けるまではこれで持つだろう」

「ありがとうござ痛い」


ボロボロと涙を零しながらお礼を言った。つもりだったけどちゃんと言えてないなこれ。


「俺はバジ、しがない冒険者だ。んでこっちの美人がルビィ、こいつのほうが俺より強ぇから気をつけろよ」

「ごめんね、乱暴な奴で。私達どちらも回復魔法が使えないから…荒っぽいけど我慢してね」


ガハハと笑いながらバジと名乗った男が俺に肩を貸してくれる。

見かけ通りというか、豪快で気持ちの良い人なのは間違いなさそうだ。

隣のルビィと言う人もさり気なくバジの荷物を持ってあげている。

きっと二人はいいコンビなのだろう、いやもしかするとお付き合いされているのかもしれない。


「本当にありがとうございます。俺は違う…あー…国から来たんですが、何もわからず何も持たず放り出されたもので…」

「訳アリだろうから無理には聞かないが…そんな格好で国超えは自殺行為だぞ」

「痛感しております…」

「見たところ腕に覚えがあるってわけでもなさそうだし…」

「その通りでございます…」


さすがに転生だなんてうまく説明できる自信がなかったし、信じてもらえる気もしなかったので、諸事情で国を離れた旅人という設定で行こうと思ったのだが…幸いにも二人はあまり深く俺の事を聞き出そうとはしなかった。

そして今の俺にはその気遣いがとてもありがたかった。


「さあ着いたぞ」


俺がミミズに襲われた話を終えた頃

ようやく目的地の町に着くことができた。


「ここがバナンの町だ」


俺がこの世界に来て初めての町は、活気があり様々な人々で賑わっていた。

その光景を見て、無事だった安堵や二人への感謝。

身体の痛みも相まってか、なぜか少しだけ泣いてしまったのだった。

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