好調な滑り出し?
「ううん…」
身体がギシギシと痛むのは、どうも今寝転がっている場所が固くてゴツゴツしているかららしい。
「ああ…ここが…本当に」
次第にハッキリしてくる意識と、周りの風景が自分を現実に連れ戻す。
「夢じゃなかったんだな…」
どこかの丘の上であろうその場所は、前世では決して見る事のなかった風景で…
俺は、本当に生まれ育った世界とは別の世界に来たんだなぁとぼんやり考えていた。
ピンク色でいかにも毒のありそうなキノコや、フワフワと浮かぶ綿毛のような虫?
双頭の蛇がスズメの様な小さくて可愛い鳥に捕食されている光景なんかも…
男ならワクワクしないわけがない光景を目にして俺のテンションは確実に上がっていた。
「よーーーし!ここから俺の第二の人生が始まるわけか!幸運人生!いける!いけるよ!…しかしあれだ…何をするにも先立つ物がなければなー…あれか?モンスターを倒してお金稼げたりするのか?」
小高い丘からキョロキョロと見渡すと遠くに町のようなものが見える。
あそこに行けばこの先の見通しがつくだろう。
いいぞいいぞ幸先はバッチリだ、これも幸運に全ツッパしたおかげだろうか。
この調子で俺は運でのし上がって…それこそ、この世界のトップに…なーんて事を考えてたわけだ。
だから油断したんだ。
ズブっという音が聞こえた次の瞬間には脇腹に鋭い痛みが走っていた。
「は?」
俺の格好は死んだ時のままの病院のパジャマ姿だったわけだが
その腹部分から何やらブリッとした物が生えていた。
「なにこれ?腸?」
そう思うのも無理はない程にそのブリッとした物は…なんというか…内臓的だった。
勿論、急に内臓が露出するわけは無いんだが、その瞬間は痛みやら不安やらで軽いパニックになってしまったみたいだ。わかってくれるよな?
「痛ぇええ…なんだこれ…やばい…なんで?何これ?」
ブリッとしたそれがブリブリと動く度に腹に激痛が走る。
苦痛に悶え、悲鳴を上げながら倒れ込むと、その拍子にブリッとした物が腹からスポンと抜けた。
そこでようやく俺はそいつが腸ではなく「生き物」である事に気付いたんだ。
「…ミミズ?」
そのミミズらしき生き物は地面をバタバタとのたうち回った後、またも俺をロックオンしたようだ。
サイズはバットや竹刀程であり、ヌラヌラと赤茶色の光沢を纏っている。
そして最も特徴的なのが頭部と思われる部分に生えた鋭いツノである。
俺の激痛の原因であるそのツノは、俺の腹から出た血で赤く染まっていた。
「ざけんな…序盤でこれは反則だろおい…誰だ幸先がいいとか言ってた奴は…」
俺だ
「これ本当にやばいんじゃないのか…しかも…こいつ倒すか、逃げるかしないと…俺のせっかくの幸運人生…」
病院の薄いスリッパを引きずりながらヨタヨタと距離を取る。
後ろからズルズルとミミズが追いかけてくる音が聞こえる。
早くない?
なんかこれどんどん距離縮まってない?
あ、口になんか鉄臭い液体が込み上げてきた…
内臓傷付いてない?逃げおおせても助かるのかこれ?
やべえうまく走れねぇ、息苦しい、腹痛ぇ、下痢してる時の非じゃないぞこれ…
そういや昔から電車とか乗った時に限って腹痛くなったわ、あれなんでだろ。
脱線した思考のまま走り続ける。
んで駅まで我慢できたと思ったらトイレが故障中だったり清掃中だったりで使えないんだよ…
俺の人生そんなことばっかだったわ…
あーそれで思い出したけどトイレに携帯電話落とした事も1回や2回じゃ済ま…
あれ?
ミミズのズルズル聞こえなくないか?
もう追ってきてない?
「ゲッホ…よっしゃ!なんとか……うっそだろお前」
なんとか思考を引き戻して、後ろを振り返った俺の目に飛び込んできたものは
身体をバネのように縮めて、今にも飛びかからんとするミミズの姿だった。
「ばっ…お前…やめ!」
ミミズの跳躍とパニックを起こした俺が転ぶのはほぼ同時だった。
転んでケツをしこたま打ち付けたものの、どうやら身体にミミズが刺さってる様子は無かった。
「ツイてる…のか?オエ…身体中が痛ぇ…誰だこんな生物創造した奴…」
身体をさすりながら起き上がると、目の前の大木にはツノが刺さって自分では抜けなくなったミミズのなんとも情けない姿があった。
「勘弁しろよ…こっちも必死なんだ」
大きめの石を拾い上げ、動けないミミズに叩きつける。
何度も何度も。
石が砕け、手が痺れきった頃、ようやくミミズもその動きを止めた。
「これ前途多難すぎるぞ…幸運100ポイント本当に入ってんのか?ステータス…ステータス…お!出た!」
そこで俺はこっちに来て初めてステータス画面を開く事になる。
そして俺が見たものは全てを呪いたくなるほどの忌まわしいステータスなのだった。
幸運100
不運200
非運200
悲運200
「まず、貴方の今の身体能力、記憶力、記憶内容等は健康だった頃のまま引き継がれます」
女神の言葉が頭の中でリフレインしていた。
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