第21話 再会
キトの町は大騒ぎとなっていた。
なぜなら突如、町の中央にある噴水公園に二頭の翼竜が降り立ったからだ。続けて馬や馬車で駆け付けた百名を超える騎士団員が、翼竜の周りを取り囲むように集まり始める。
平和な町とは思えないその光景に、泣き始める子供や多くの野次馬が現れ騒々しい事態となった。
そんな中、翼竜の上から降りてきたのは、ロイド将軍とミリタイド大佐、そして血まみれの少女を抱きかかえたケンセイであった。
同時に、そこへ駆け寄る一人の騎士が大声で報告する。
「将軍! 金木犀がみつかりました!」
「ここから近いか?!」
「はっ! 南に見えますあの角を曲がってすぐのところです!」
全員が一斉に、その騎士が指さす先に注目した。
「ケンセイ殿。私と大佐で前後を護衛するので、このまま向かおう!」
「ああ、わかった」
周りを騎士団が取り囲む中、ケンセイたちは走って金木犀へ向かう。
そして最初の角を曲がると、戸建てが立ち並ぶ中に診療所の看板が見えた。
同時に懐かしい金木犀の甘い香りが立ち込め、ケンセイの頭に壮太の顔がよぎる。
――こには彼がいる――。
そう思った瞬間、彼は玄関前でピタリと足を止めてしまうのだった。
すると、それに気づいたミリタイド大佐が声をかける。
「ケンセイ、どうした?! こちらだぞ! 急ごう!」
「あ、ああ、わかっている。すまない」
重い足取りで診療所の中に入るケンセイ。
するとそこは先に駆け付けていた護衛の騎士たちでごった返しており、どこに向かえばよいのかわからなくなった。
そのとき――優しく呼びかける声が耳に入ってくる。
「どうぞこちらへ。みなさん、道を開けてください」
その声に反応した騎士たちが一斉に壁際で整列し、ケンセイの前に道が開けた。
そして彼が向かう先には、白衣を着た人物が手招きするのが見える。
奥へと進むケンセイ。
彼の鼓動は急激に早くなる。
逆光で相手の顔はよく見えない。
しかし、それが誰であるかはもうわかっている。
その人は頭がおかしくなるほど愛している人だ。
その人のことを考えない日は一日もなかっただろう。
その人に再び会える日を夢に見ない日などなかったのだ――。
そしてケンセイはついに、その人ジャポニと対面するのだった。
◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇
それはケンセイとジャポニが出会う少し前のこと。
診療所に呼び戻されたジャポニは、白衣に着替えながらクックに詳細を確認していた――。
「重篤だって?」
「はい。騎士団の人が来て、王女様を今からここに運ぶと。それで、ジャポニさんに治療して欲しいと言ってました」
「王女様って、カトレア皇女殿下のことだよね。何歳くらいだっけ?」
「え? 一度も見たことないんですか?」
「いや、だって、ほら。僕は記憶がないから……」
「……ちょっと、ジャポニさん。記憶がないのって一年以上前の話ですよ。その言い訳、いつまで使うつもりですか」
「い、いや、ごめん。本当に見たことないんだよ。本当に。で、何歳なの?」
「仕方ないですねぇ。私が教えて差し上げましょう。たしか、殿下のお歳は……十歳から三十歳くらいの間ですよ」
「それ、知らないのと同じでしょ!」
「だって遠くから拝見したことはありますけど、豆粒くらいの小さなお姿でしたから」
「……それで。殿下になにがあったの?」
「それが、その騎士さんも詳細は知らないとのことでした。ただ、魔族との交渉中に怪我をされたらしくて。ヒールでは治らないほどだそうです」
「魔族に襲われたのかな。間に合えばいいけど……」
そのとき、診療所内の騎士たちが一斉に騒がしくなる。
そしてジャポニが窓の外に目をやると、鎧を着た数十名の集団が診療所の前を通り玄関へと向かっているのが見えた――。
「来たみたいだね。さあ、頑張ろう!」
すると、怪訝な顔でレンカに声をかけるクック。
「あの……。あなたもそろそろ部屋から出てくれますか?」
「で、ですよねぇ~。あははは。失礼しましたぁ……」
しかし、部屋を出ようとするレンカに慌てて声をかけるジャポニ。
「ちょっと、レンカさん。どこに行くんだ?」
すると、クックは驚いた様子で確認する。
「え? ジャポニさん。彼女も立ち会うんですか?」
「そうか、クックにはちゃんと紹介してなかったね。彼女はレンカ・クリスさん。医療経験者なんだ。重篤の患者だから彼女もいてくれた方が助かる」
しかしその言葉を聞いて、不安そうな表情に変わるレンカ。
「で、でも、先生。私……もう何年も現場から離れていますし、前も失敗ばかりで……」
「過去のことはいいよ。それよりも今、目の前の患者をどうするかじゃないかな。君は僕を手伝うと言ってくれたけどどうする? 時間が無い。今すぐ決めてほしい」
「……や、やります! 手伝わせてください!」
「それじゃあ、すぐに洗浄してアルコールで消毒! そして服とマスクと手袋!」
「はい!」
「クックは血圧計の準備!」
「はい!」
準備が終わった後、ジャポニが手術室の扉を開けると、目の前にある廊下は背の高い騎士たちで埋め尽くされ進めない状況となっていた。
そのとき、少女を抱える剣士の姿を見つけたジャポニが優しく声をかける。
「こちらですよ。みなさん、道を開けてください」
そしてジャポニはついに、美琴が転生した勇者ケンセイと出会うのだった。
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