最後の配信
三影ダンジョンの第11層。俺たちとエグゼは、5メートルほどの距離で向かい合っていた。
「どうも、お久しぶりです。以前と比べて言葉遣いが粗野になりましたね」
「あんな不意打ちを仕掛けておいて、まだ敬語を使ってもらえると思うのか?」
不意打ちを仕掛けたとは思えない飄々とした態度に苛立つが、なんとか冷静さを保つ。藤野さんのことを思えば早く切り抜けたいが、この男は底知れない。そんな直感が短慮に走ろうとする衝動を押し留めた。
「それにしても驚きましたよ。まさか政府まで抱き込むとは、なりふり構わぬとはこのことですね」
俺の嫌味を完全に無視して、エグゼは言葉を続ける。
「一度は取るに足らないと放置しましたが、このままでは先を越されかねない。そこのダンジョンマスターには死んでもらって、ダンジョンのエネルギーを浪費させます」
「……!」
その宣言に俺は歯噛みする。よりによって、なぜ今なのか。それとも俺たちの行動を逐一監視していて、三影ダンジョンに入るのをずっと待っていたのだろうか。
「やっぱりそれが目的か」
「世界のリソースは融合型ダンジョンに投入するべきですからね。独立型ダンジョンに『一番乗り』されては世界の損失というもの」
「世界の損失じゃなくて、あんたの損得勘定じゃないのか?」
俺はそう反論するが、エグゼは涼しい顔で否定する。
「閉塞した世界に風穴を開けるだけですよ。それに、融合型ダンジョンの躍進は悪いことではありません。現にダンジョンの産物に由来する新薬がいくつも作られている。薬として承認されれば、多くの人々が恩恵を受けるでしょう」
「有力者しか手に入れられない事態にならなければいいな」
「それは一時的なものでしょう。たとえば貴方も使っている浮遊カメラ――あれは天原ダンジョンが現実と融合し始めたことで作動するようになったものです。ですが、こうして人々に行き渡っているでしょう?」
「……そうか」
その情報には興味を引かれたが、俺は無関心を装う。ちらりと藤野さんへ視線を向けると、彼女はコクリと頷いて後ろへ下がった。
「論争する気はないんだ。また今度付き合うから、今日は引き上げてもらえないかな」
そう告げれば、彼の姿がゆらりと揺らめいた。
「お断りします」
「――っ!」
返事とともに振るわれた双剣を、俺は魔剣ダインスレイブで受け止める。その様子を見て藤野さんが焦りの声を上げた。
「どうして!? このダンジョンはPKできないはずなのに……!」
「ダンジョンマスターとして未熟だからでは?」
そんな言葉と同時に、彼は左手の剣を突き出す。その刺突を避けてカウンターを狙うが、もう一つの双剣が俺の剣撃を弾き、逆に反対側の剣が俺を狙う。
「っ!」
避けきれなかった剣を、俺は籠手で弾いた。エグゼが剣を2本使うからと言って、攻撃力が2倍になるわけではない。体重を乗せた強烈な剣撃はどちらか片方でしか使えないからだ。
同時に2本の剣に体重を乗せることができない以上、重さが乗らない剣撃は籠手で充分対応できた。
そうして、俺とエグゼは何度も剣を打ち合わせる。相手の重い斬撃を魔剣で凌ぎ、横薙ぎに繰り出されたもう一つの斬撃を小さく横へ跳んでかわす。
「――逃がしません」
俺を追うようにエグゼは剣を突き出す。だが、それは無理な体勢から繰り出された剣撃だ。そう判断して俺は籠手で剣を弾き――。
「くっ……!?」
強烈な衝撃に呻く。エグゼの剣を受け止めた籠手が半壊したのだ。受け流したつもりだったが、通常ではあり得ない強烈な一撃だった。さすがは実力派で知られるだけあって、一筋縄ではいかないということだろう。
だが、いつまでも守っているわけにはいかない。俺は相手の斬り下ろしを避けながら、カウンターで暗黒騎士のスキルを放った。
「【亡者の呪腕】」
俺がさっきまでいた空間が歪み、エグゼが付き出した剣を搦め取ろうとする。さすがに剣を奪うことはできなかったが、剣を掴まれたようなものだ。当然その動きは悪くなる。
「ジュン……!」
さらに、藤野さんが俺に
「っ!?」
全力をこめて振るった魔剣の先で、エグゼの身体がブレた。分身したかのような残像を残して、流れるような動きで俺の背後へ抜けて――。
「【黒十字・醒】」
「ぬ――!」
俺を無視して藤野さんを仕留めにいったエグゼを、地面から立ち昇ったエネルギーが吹き飛ばす。そう動くと思って仕掛けておいた罠系のスキルだ。
「ごめん、抜かれた。しかし【軽戦士】か【忍者】にあんなスキルあったか……?」
盛大に吹き飛んだエグゼの様子を窺いながら、藤野さんに話しかける。エグゼは双剣使いとして有名な配信者だから、このダンジョンでも双剣や二刀流が使える【軽戦士】か【忍者】の
だが、あんな妙な動きは見たことがない。俺は趣味と実益を兼ねて、三影ダンジョンの
そんなことを考えていると、後ろから藤野さんの声が聞こえてきた。
「違う……あの人のレベルは1のまま。
彼女は動揺した声を上げる。おそらくダンジョンマスター権限でステータスを覗き見したのだろう。だが、その結果は不可解なものだった。
「レベル1で
「うん……なんだろ」
エグゼの強さはなんなのか。本人の武術の経験だとか、そんなものではない。ダンジョンの法則に基づいたなんらかの強化を受けているはずだった。
そんな話をしているうちに、エグゼが距離を詰めてくる。余裕をアピールしたいのか、悠然と歩いてくる姿は実力派の配信者の名にふさわしいものだった。
「ん?」
と、相手の動きに注視していた俺は、ふと違和感に気付いた。それは、彼の配信動画を見て戦い方を研究していた俺だからこそ気付くもの。
「あの双剣。天原ダンジョンで使っていたものと同じだ」
「え――?」
その指摘に藤野さんは上ずった声を上げた。本来、現実から持ち込んだ武具はほとんど攻撃力を持たない。それはかつて持ち込んだ木刀で実証済みだ。天原ダンジョンの武具なら現実に持ち出すことはできるだろうが、ここまでの威力を持っているはずがない。
「PK禁止エリアで戦闘を仕掛けられて、武器も天原ダンジョンから持ち出してる。それに……たぶん、さっきのスキルも天原ダンジョンで使ってたやつだ」
頭の中を整理するように、俺は一つずつ疑問点を口に出す。そうして考えていると、藤野さんがはっと息を呑んだ。
「もしかしたら、【異界渡り】のスキルかも」
「異界渡り?」
「うん。自分が属するダンジョンのステータスやスキルを、他のダンジョンでも使えるようにするやつ」
「何だそれ。無茶苦茶じゃないか」
俺は思わず口を開く。さすがに現実世界では使えないだろうが、それでもチート級な気がする。
「でも、これってスキル設定にめちゃくちゃエネルギー使うんだよね。それに……スキルが成長して【異界喰らい】になったら、探索者がダンジョンを乗っ取ることだってできちゃうし」
「それはまた……本末転倒なスキルだな」
藤野さんの説明に納得する。せっかくダンジョンマスターになったのに、その座を脅かす仕組みをわざわざ作る必要はない。使い道があるとすれば――。
「なるほど。本当に信頼できる『協力者』がいるなら、ライバルのダンジョンを荒らすことはできるわけか」
とはいえ、ダンジョン内を無防備に歩き回るダンジョンマスターなんて藤野さんくらいのものだろうし、あまり役立たないスキルな気はするが、
「――その通りです。まあ、他にも使い道はあるのですが」
と、俺たちの話が聞こえていたのだろう。エグゼはわざとらしく拍手をしてみせる。
「そんなに三影ダンジョンを警戒してたのか。エネルギー消費が激しいんだろ?」
「先を越されることに比べれば安いものです。それにしても――」
そして、エグゼは興味深そうな顔で俺を指差した。
「ジュンさんはいい腕をしていますね。【摩天楼】に引き抜きたいくらいです。才能か研鑽の結果か知りませんが、それは誇っていい」
「それはどうも」
思わぬ賞賛を受けるが、気を緩めるわけにはいかない。
「ですが、それだけでは説明がつきません。配信動画で確認したステータスなら、充分仕留められるはずだったのですが……」
彼は不思議そうに首を傾げる。おそらく彼は、俺が天原ダンジョンの高レベル者であり、現実世界でも身体能力が向上していることを知らないのだろう。
「【異界渡り】のスキルを使いこなせてないとか?」
だが、それを馬鹿正直に教える必要はない。警戒して勝手にがんじがらめになってくれるなら大歓迎だ。
「……理由は気になりますが、ここで考えていても仕方ありません。考察はダンジョンマスターを仕留めてからです」
そう告げた直後、彼から凄まじい気迫が放たれた。なんらかのスキルだったのか、エグゼの身体がうっすら輝いている。
「終わりにしましょう」
「くっ――?」
そこからの俺は防戦一方に回っていた。さらに速度を上げた連撃は神速とでも言うべきもので、双剣が振るわれるたびに俺の傷が増えていく。
それでも、このダンジョンで戦うなら俺とエグゼはほぼ互角だっただろう。だが、俺にはどうしようもない弱点があった。
「させるか――っ」
またも俺の隙をついて、エグゼが藤野さんを攻撃しようとする。そのたびに俺はフォローに入らなければならないため、相手にペースを握られていたのだ。
藤野さんも防御壁くらいは展開しているだろうが、今の彼女はそもそもが衰弱しきっている。少しでもダメージが入れば、その時点で本当に死んでしまう可能性が高かった。
「いやいや、本当に粘りますねえ」
戦闘狂の気があるのか、エグゼは楽しそうに告げる。自分に絶対的な優位があると確信しているからだろう。残りHPに応じて能力が上がる暗黒騎士だからこそまだ耐えられるが、このままではいつか押し切られてしまう。そして――。
「また――っ!」
これで何度目だろうか。藤野さんを狙ってすり抜けようとしたエグゼの進路を、魔剣を振るって阻む。だが、そこで相手は予想外の行動に出た。無理な体勢のまま、双剣の片方を彼女へ向けて投げつけたのだ。
「な――?」
本来なら命中すら怪しい投擲は、不自然なほどまっすぐ彼女を目がけて飛んでいく。その剣は怪しく輝いていて、なんらかの投擲スキルを使ったことは明らかだった。
「――っ!」
今から剣を振るっても間に合わない。そう判断した俺は、反射的にスキルを使って剣の射程を伸ばし、藤野さんへ向かっていた剣を叩き落とした。だが――。
「ぐっ……!」
灼熱の痛みに俺は苦悶の呻きを上げる。背中を斬り裂かれたのだ。とっさにかわしたつもりだったが、無防備な背中を見逃すほどエグゼは甘くない。
そして、振り返った俺の目に映ったものは、剣を振り下ろすエグゼの姿だった。その剣筋は完全に俺を捉えていて、致命傷を受けることは明らかだった。
「それなら――!」
そう悟った時、俺は【復讐撃】のスキルを発動させた。少なくともエグゼを道連れにしてやる。そう決意すると同時に、彼女への謝罪が心に浮かぶ。
ごめん、藤野さん。最後に一人にしてしまって――。
「【守護方陣】!」
――だが。俺の命を賭けたスキルは不発に終わった。俺の首を刎ねようとしていた双剣が、輝く光の壁に阻まれていたからだ。
「ソウさん!」
「すまない。遅くなった」
いつの間に接近していたのか、俺の隣には聖騎士たるソウさんの姿があった。彼は油断なくエグゼを睨みつけながら、俺の負傷を回復魔法で癒してくれる。
「モンスターか人間か区別がつかないが、これが敵ってことでいいな?」
「ああ。……よかった。これでエグゼの話に付き合った甲斐があったよ」
そんな会話を返すだけで、スッと心が軽くなる。今ならエグゼと互角に戦える気がした。
「ちっ、時間稼ぎだったか――」
その一方で、エグゼは初めて余裕を失った顔を見せていた。そんな彼を目がけて、一条の矢が放たれる。
「おっと」
それでも、不意打ちの矢をかわしたエグゼは見事と言うべきだろう。問題は、その矢が彼の足下に突き刺さり、瞬時に大量の蔦が発生したことだ。
「これは!? しまっ――」
「終わりだ! 【闇之剣・裁】!」
マナさんの技で身動きが取れなくなったエグゼに対して、俺は紫暗色の光剣を叩き込む。それでも謎のスキルで回避しようとしたエグゼだが、このスキルは拘束デバフ時に絶対命中かつ特攻が入る特化仕様だ。この連携で倒した敵は数知れない。
奴は【異界渡り】のスキルを持っているが、やはりこのダンジョンのルールの影響下にもあるのだろう。その法則を曲げることはできないようだった。
「――!」
エグゼが何かを叫んでいたが、破壊音で何も聞こえない。今の俺が放てる最大火力の直撃を受けて……エグゼはこのダンジョンから消滅した。
◆◆◆
「ありがとう。本当に助かった」
エグゼを倒しきったことを確認した俺は、傍らにいるソウさんに礼を言う。彼らの到着があと少し遅ければ俺は倒され……そして藤野さんは死んでいただろう。
そんな思考が頭をよぎった瞬間、俺は弾かれたように後ろを振り返った。
「リリック! 大丈夫か!?」
「うん……まだ、大丈夫」
俺の視界に入ったのは、マナさんに抱き起こされている彼女の姿だった。エグゼとの戦闘が心身に負担をかけたようで、その様子はあまりに弱々しい。
「具合が悪いとは聞いていたけれど……これほどだったなんて」
そんな藤野さんの様子にショックを受けたようで、マナさんは泣き出しそうな顔をしていた。いつの間にかソウさんがその隣に来ていて、彼女の肩を抱く。
「その状態でもダンジョンに来たということは、何か目的があるんだろう? リリックちゃん。俺たちに手伝えることはあるか?」
「ありがとう……二人とも、一緒に来てもらえる?」
そして、俺たちは目的にしていた大樹の根元へ向かう。二人とも頭の中は疑問で一杯だろうが、静かに付いてきてくれた。
その道中で、藤野さんはハッとしたようにマナさんに話しかける。
「マナさん……浮遊カメラってある?」
「え? 一応持ってきているわ」
突然の問いかけに首を傾げつつも、マナさんは近くに浮いていた浮遊カメラを呼び寄せる。
「貸してもらってもいい? みんなに挨拶したい」
「いいけれど、挨拶って――?」
マナさんは不思議そうだったが、俺にはその意味が分かった。彼女は『うぃずダンジョン』のリスナーに別れの挨拶をしたいのだろう。
本来なら俺の浮遊カメラを使うところだが、今回は急いでいたし配信も考えていなかったため、持ってきていなかったのだ。
借りたカメラを『うぃずダンジョン』としての設定に変更して、彼女は最後の配信を始める。
『なんだなんだ』
『今日って配信の予定だったか』
『ゲリラ配信か? 最近配信ペース落ちてたから嬉しい』
突然の生配信だったが、予想以上のリスナーが集まる。そんな彼らの前で藤野さんは笑顔を作ってみせた。
「みんな、突然ごめんねー。詳しいことは言えないんだけどさ。……もう配信できないかもだから、最後に挨拶したくて」
『えええええええええ』
『何があったんだ』
『リリックちゃん嘘だと言ってくれーーー!』
『あのクソエイムがもう見られないとか鬱』
突然の引退宣言を受けて、見たことのない勢いでコメントが流れていく。話す彼女に合わせて、俺は歩くペースを少し緩めた。
『なんか揉めたのか?』
『まさか寿引退か。ずっとジュンにくっついてるし』
『くっつくというより支えられてない? リリックちゃん調子悪い?』
やはり常連のリスナーには見抜かれているようで、彼女の体調を心配するコメントが相次ぐ。その流れに乗って、藤野さんはあっさり体調不良を認めた。
「そうなんだよね。ちょっと体調が悪くてドクターストップ、みたいな?」
『マジか。ショックすぎるんだが』
『それで配信ペース落ちてたのか』
『顔色悪いし痩せた気がする』
明るく振る舞っているとはいえ、見るからに調子の悪い藤野さんが映っているからだろう。彼女の言葉を疑うリスナーはほとんどいなかった。
「正直、あんまり余裕ないんだけど……これだけ言っときたくて」
そう前置いて、藤野さんはカメラに向かって笑いかける。
「『うぃずダンジョン』は、みんなのおかげでここまで来れた。本当に感謝してる」
『え、ちょっと待って。ガチでお別れの挨拶じゃん』
『ヤバい。泣けてきた』
『いつでも帰ってきてくれ。リリックちゃんが復活するの待ってる』
彼女が本当にいなくなると悟ったリスナーたちが、次々とコメントを投稿する。今だに信じられない者。彼女の引退を嘆く者。そして再び会える日が来ることを願う者。
そんなコメントに目を通して、藤野さんはもう一度カメラに微笑みかけた。
「今までずっと……ありがとね」
最後にそう告げて、彼女は無言でカメラを見つめる。そのまま10秒ほど経ったところで、俺は浮遊カメラの配信機能をオフに切り替えた。そして――。
「リリック!」
配信を終えた瞬間、藤野さんの身体がふらりとよろめいた。リスナーには少しでも元気な姿を見せたい。そう気を張っていたのだろう。
「あ――」
もはや立つことも厳しそうな彼女を、俺は勝手に抱え上げた。藤野さんはまた恥ずかしがっていたが、有無を言わせず実力行使に出る。
「あらぁ、お姫様抱っこなんて羨ましいわ」
「マナ、羨ましいのかい? それなら君も抱いて運ぶよ」
そんな会話は相変わらずだが、二人のやり取りは少しぎこちない。藤野さんを気遣って、いつも通りのやり取りを演じてくれているのだろう。
「そうなると、お姫様抱っこをした男女二組が並んで歩くという謎の絵面になるな」
「何それ。変な儀式みたい」
最初は恥ずかしがっていた藤野さんも軽く笑う。その様子にほっとすると、俺は足早に目的地を目指した。
「これが――」
それから数分後。俺たち4人は、大樹の根元へ辿り着いていた。どう見てもただの年季の入った木にしか見えないが、藤野さんはほっとしたように息を吐く。
「間に合った……ね」
そう呟くと、彼女は自分の足で地面に立った。そして、フラフラとした足取りでソウさんとマナさんに近寄り……両手で二人の手をそれぞれ握る。
「ソウさん。マナさん。今まで、本当にありがとう。一緒にダンジョンを探索したり、配信したりするのホントに楽しかった」
「リリックちゃん、それじゃまるで――」
「どんな結果だとしても、二人と会えるのはこれで最後だと思うから」
「……!」
その言葉で二人の表情が固まる。配信ができないだけでなく、彼女の死期が近いことを悟ったようだった。彼らは動揺した顔で俺をちらりと見て……そして藤野さんに向き直った。
「……ジュンともここで別れるのか?」
「ううん。ジュンには、最後まで一緒にいてもらいたくて」
そんな彼女の回答を聞いて、ソウさんは静かに頷いた。
「リリックちゃん、今までありがとう。このダンジョンに4人で潜るのは楽しかったよ」
「本当に……素敵な日々だったわ。ありがとう」
マナさんは涙を堪えきれなくなったようで、手をきゅっと握ったまま俯く。
「じゃあ……行くね」
そう別れを告げて、藤野さんは俺の腕につかまる。彼女を支えながら大樹の裏側に回り込むと、そこには人が入れるほどに大きな木の洞があった。
「ちょっと待ってね」
藤野さんが空中で何かを操作すると、木の洞が突然虹色に光り出す。これこそが、三影ダンジョンのコアルームへ繋がるワープゲートなのだろう。
「大丈夫。ダンジョンマスターと一緒なら、『協力者』もコアルームに入れるから」
「分かった。……行こう」
そして。俺たちは、虹色の境面に足を踏み入れた。
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