第10話  小さな鼓動

 毎晩一日の終わりに、セシルの部屋でお茶を飲みながらその日一日の出来事や自分についての事をお互いに話する事が、ユリウスとセシルの日課となった

 また、その時間が二人にとって一日で一番楽しい日であり、待ち遠しい時間になった


 数日たったある日、それまで家族についての話を一切することのなかった両親の話をしだした

 まあ、元はといえばセシルが、

「ユリウス様は、お母様ににていらっしゃるのですか? それともお父様ににていますか?」

とついユリウスに聞いてしまったせいなのだが……


 ユリウスはゆっくりと話だした


「母は、ザンダー辺境伯家のひとり娘だった

 私が2歳の時に病でこの世を去ったので母の記憶はほとんどない…… ただ歌が…… 母の歌う歌だけが私の中に残っているんだ

 父は、ザンダー辺境伯家の騎士団の騎士団長だった

父は私が5歳の時に戦にでて帰ってこなかった

父は強く、優しくいつも私を包み込むように育ててくれた」


「お母様はいつもユリウス様に歌をお聞かせして、

 そしてお父様も素敵なお父様でいらしてたんですね」


「ああ、父はとても素敵な太陽の様な人だった」

 そうポツリと話すユリウスの瞳が少し寂しそうに感じた

 少し俯き加減の彼の膝に組まれた手が微かに震えていた


 セシルは、思わずユリウスの手を包み込むように握りしめた

 ユリウスは、思わずセシルをみつめた


「はしたない真似を致しまして申し訳ございません ほんの少しの間だけこのまま」


 セシルがそういうとユリウスはセシルをみつめたまま

「大丈夫だ…… 問題ない……」

 とまたポツリと呟いた


「私は、ユリウス様もご存知でいらっしゃいますが双子の兄がおります

 一卵性双生児は凶といわれ、私は生まれた時に災いをもたらせるから処分するように家門の者から両親は迫られていたそうです

 ただ、私の両親は 「誰が凶などと決めたのだこのふたりは私達にとって幸運を運ぶ天使達だ

しかも 双子となれば2倍だ!誰も手を出させない ふたりは 私が守ってみせる」と仰ってくださって」


「素晴らしいお父上だ」


「ええ、まあ家門の者はそれが原因で我が家から離れてしまい孤立無援の田舎伯爵家になってしまいましたが領民達は皆父を慕ってくれていますし、貧乏ながら何とか皆笑顔で毎日を過ごしております」


「それで、アカデミー時代アルバイトなどしていたのか」


「そうですね、少しでも負担を減らせばと思いまして 兄は魔力が強く、成績も優秀だったので奨学金と魔塔のサポートがありましたが、私は奨学金は頂けたのですが他の事は自分で何とかしたいなと思って……」


「貴族が奨学金を受けるのは難しかっただろう」


「あら、ユリウス様 平民の商家のほうが我が家よりお金もちなんですもの」

 とセシルは笑いながら話しているがきっと兄と一緒に努力し続けてきたのだろうとユリウスは思った


「でも、アルバイトを沢山したおかげでお金では買えない経験や知識を沢山得ることができました

色んな方と仲良くなれましたしね  私には宝物のような経験です」


「沢山って公爵夫人の助手だけじゃなかったのか」


「ええ、本当にありとあらゆる事をしましたよ

まあ、学生だったので出来ることなんてたかがしれていますけどね

 画廊の接客とか劇場のスタッフであるとか学内では、教授のレポートの清書とかでしょうか

そう、刺繍の内職もしていましたよ」


「本当に色々やっていたんだな」


「ええ、お陰でアカデミーの思い出はアルバイトの事ばかりですね

できた友人は御年配の方ばかりですが凄く素晴らしいお友達ばかりです」


 確かに素晴らしいな……この国の重鎮ばかり

 この子は一体この小さな体のどこにこんなバイタリティを秘めているのだろうか

 ユリウスは益々セシルを知りたくなったのである

 セシルはずっと自分がユリウスの手を握りしめているのにしばらくたって気がつき、真っ赤に顔しながら狼狽えた


「ユリウス様! 申し訳ございません」


「問題ない…… ではもう休む」

 そう言って立ち上がり部屋にもどるユリウスの耳は真っ赤になっていた


 なんだ、あの顔は…… とふたりはその夜、しばらく胸の小さな鼓動が止まらなかった




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