第9話 銀狼様と最初の一歩

 ショーン様とたわいない会話をしながらチェスを指している時に、ショーン様がさりげなくそしてゆっくりとユリウス様のお話をはじめた


「セシル ユリウスは どうだ 中々難しい奴だろう」


「いえ とても優しくお気遣いくださっていますよ」


「あいつがか?」とハハハハとショーン様は笑う


「そうですね 少し無表情で分かりにくい所はありますが いつも周りの者を気遣ってくださっている所も優しいお気持ちもわかるような気がします」


「そうか……やはりセシルだな

  こういうと君には失礼かも知れないが今回のこの縁談はユリウスの…… ザンダー辺境伯家の影響力を下げる為の王命であろう」


「それは、私も王宮に上がって理解いたしました」


「ただ、そこがあやつらの浅い所だ!

  下げて落としてしまうどころかセシル君は、ユリウスの翼になるだろう」


「翼……ですか」


「ああ、この国に…… ユリウスの祖父にがんじがらめに縛りつけられているあいつを解き放ち君が彼の翼となり羽ばたかさせてあげて欲しい 」


「私が彼のそんな存在になれるでしょうか」


「焦らなくてもいい…… セシル

 君なら檻に入れられ鎖で羽交い締めにされる狼を解放して飛び立つ翼になれるさ」


「狼に翼って 魔神マルコシアス ではないですか」

 と真面目な話をしているのに想像していて笑ってしまった

「申し訳ございません 想像してしまって……」


「よい よい そうだな 銀色の 魔神マルコシアスか…… そうだなアイツにピッタリだな」

 とショーン様は嬉しそうに笑った


「君が彼の伴侶として決断しているのであれば 、君は 翼でありながら彼の秘密兵器にならなければならない ぞ

 王家や王家にへつらう奴らにはまだ君の手札を全部みせてはいけない」


「手札ですか……」


「ほぉ、無自覚か まあ、自分の知識や人脈を全てみせるな

  まあ、イアンと私は今朝の件で知られてしまったが 問題なかろう

 逆に少し警告になってよかったかもしれんな」

 とショーン様は、ふむふむとご自身で納得されながら頷いた


「ショーン様の仰りたい事は理解できました ・・・・ 

  私 辺境伯様を影ながら支えて行きたいと思います」


「私とイアンも力になりたいと思っている

 まあ、まだ少しは君達を護る力は残っているだろう」


「おふたりは、最強の守護神ですわ」


「ハハハ まかせておきなさい

 うむ ところでまだユリウスの事を名前では呼んでいないのか? 」


「はい、まだお許し頂いておりませんので… 」


「よし、では宿題をあげよう

  君達はもっと会話をして距離を縮めないといけないぞ

  名前を呼べるようになることがまず最初の宿題だな」


「頑張ってみます」と自信なさげにこたえた


「チェスの手はいつも強気なのにそういう事は弱気なんだな」

 と笑いながらショーン様はお茶を手にとった


「まあ、ひどい そんな事仰ってよろしいんですか? はい!チェックメイト」


「え? ちょ、ちょっと待ってくれ セシル」


「だめです 待ったなしですよ」


「じゃあ、もう一度だ」


「はい、わかりました」

 とショーン様の嬉しそうなお顔みながら私も笑っていた


 その日の夜、さてどのようにショーン様の宿題をいたしましょうか……

 と悩んでいると部屋の扉をノックする音がした


「はい」と扉をあけるとユリウスが立っていた


「辺境伯様 どうされたのですか?」


「いや、少しお茶でもどうだ」


「はい」


 そう返事するとユリウスの後ろからサマンサ

 がお茶の支度を持ってきて入ってきた

 お茶の用意ができると

「それでは 私はこれで」とサマンサは出ていった


「あの……」とユリウスは何か言いづらそうにしている


「私も辺境伯様とお話したかったのでお茶のお誘い嬉しいです ありがとうございます」


「そうか…… もう少し話をした方がいいと言われ…… いや、思ってな」


 なるほど、ユリウス様もイアン様に何か言われたのね


「私もそう思っておりました 」


「では、最初に…… その……名前で呼んでほしい」

  いきなりそこなんですね……

 ずっと気にしていてくださったのかしらと思うと嬉しくてニヤニヤしてしまう


「よろしいんですか……? ユリウス様」

 と名前を呼ぶと

 彼は、無表情にしているが耳が赤くなり 手をぎゅっとにぎりしめていた

 思わず彼がぎゅっと握りしめている手を両手で包み込んでしまった


「ユリウス様 私はあなたが本当は感情が豊かな方だと思っています

 お顔に感情をだせないのには理由があると思います

  でも私はあなたの考えていること 感じていることを少しでも感じたい 理解したいと思っています

  あなたのペースでいいんです

 ゆっくりでいいから 私達沢山色々な事をお話しませんか」

 ユリウスの銀色の瞳を見つめながら自分の気持ちを伝えた


「ありがとう…… う ……嬉しく思う」


「では、はじめは、私がお話しますね」

 と自分の好きなものの話などたわいない話からはじめた


 小さいけど私には大きな一歩少しユリウス様に近ずけた気持ちになれた


 ふたりの守護神に感謝した


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