第7話 銀狼様と初めてのお茶会
王妃様のお茶会当日になった
本日も朝からザンダー辺境伯家の精鋭侍女達が張り切ってお支度をしてくれた
「セシル様、素敵です! もう!王都一 いえ国一番の
と侍女一同がやりきった感だしながらほめてくれる
「ありがとうございます 皆さんの日頃の努力のおかげですわ
いつもありがとう」
嬉しそうに微笑みながらセシルが侍女達に礼を言う
「セシル様!」
普段、無表情のこの邸の主人からは笑いかけられることは皆無
辺境伯家の給金はいいし、福利厚生はバッチリ使用人同士もみんな仲が良く職場としては最高
だがしかし、今まで主人から微笑まれて礼を言われたことのない使用人たちにとってこの時「最高の職場」から「すごく最高の職場」にランクアップした瞬間であった。
自分の仕える主人にお礼を言われながら微笑んでいただける日がくるなんて!
と侍女達は感激し、益々セシルのことが好きになった
「さあ、セシル様参りましょうか」
とサマンサに呼びかけられるとユリウスがエントランスに立っていた
じーっと私をみているが何も言わずに無表情に立っている
「辺境伯様」とスタンが声をかけるとビクッとして「私もいく」と腕を差し出した
ああ、丁度ユリウス様も王宮に御用があるのね そう思って 「ありがとうございます」
と彼の腕にそっと手を置いた
馬車に乗っても相変わらず無表情で外をみている
王宮に着き、エスコートをされ王宮の大きなエントランスまで一緒にいき
「では、辺境伯様 ここで」というと
腕に置いている手をそのままにぎり王妃宮の庭園まで一緒に歩いていくではないですか
「あ、あの…… 辺境伯様こちらはお茶会の」
「お茶会の場所までエスコートする」
といいながら私をエスコートしてスタスタ歩く
その後ろを私の護衛騎士のカトレアがついてくる
「ありがとうございます……」
どうしたんだろうと思いながら庭園に行くと
待ち構えたようにご夫人たちが既に着席していた
「え!」「まさか」「ザンダー辺境伯様」「どうして?」という驚きの声と夫人たちの頬染める顔
皆さん・・・私が一番びっくりしてます
「よく来てくれたわ セシル あら、ユリウスは愛おしい婚約者が心配でエスコートしてきたのかしら」
無言で会釈するユリウス
「お招きいただきありがとうございます」とカーテシーをし挨拶をする
「ふむ、そなた先日も思ったが田舎娘のくせに綺麗な所作をする」
そういうとくすくすとあちらこちらから笑い声が聞こえてくる
まあ、田舎娘なのは本当のことだから腹も立たないんだけどね
ユリウスは椅子をひいて私を腰掛けさせると
耳元で 「また迎えにくる」と呟いた
ご夫人様方は頬にキスしたと勘違いしキャーキャー言っている
「では、失礼致します」と礼をしてユリウス様は去っていった
「あの、辺境伯様とはお話したりしますの?」
と向かい側に座るご婦人にはなしかけられた
この方は確かブロワ侯爵夫人確かマトレシア夫人のサロンでもお会いしてる方だわ
「ええ、ブロワ侯爵夫人 辺境伯様はいつもお気遣いくださりながら話しかけてくださいますよ」
まあ主に大丈夫かとか問題ないとかだけどね でも気遣ってくださるのは嘘ではない
「あら、あなた私の事知っているの?」
え?私のこと覚えていて話しかけてくれたのと思ったら違ったのね・・・・
「はい、ブロワ侯爵夫人は孤児のためにバザーを開かれたり社会活動に貢献されていらっしゃる事でお名前をよくお聞きしておりました
申し訳ございません 私ついつい、自分が存じ上げているだけなのに親しげにご返事をしてしまいました」
「あら、何をいうのいいのよ 私の事知ってくださったなんて」
とニコニコと嬉しそうだ よかったご機嫌を損ねなくってこの方お話好きだからあっという間に噂話をする方なのだ
だからきっと興味津々で黙っていられなかったのだろう
周りを見ると じゃあ私は・・・私の事は知っている?みたいな顔をしている
皆さんマトレシア夫人のサロンにいらしてたから存じ上げておりますよ
と思いながら 一人ずつに挨拶をした
結局挨拶だけでほとんどの時間を過ごしていたかもしれない
おかげで皆様と和気藹々とした雰囲気が作れたような気がする
でも、誰一人私がマトレシア夫人の助手だったことに気がついていない・・・・
はっ!!それもそうよねザンダー辺境伯家の精鋭侍女様達のおかげで今の私はあのマトレシア夫人の助手をしていた時の風貌とは全然違うのだもの
「それはわからないわ」とポツリと小声で言ってしまった
すると「何がわからないの! 私の方がわからないわ!」
と前に座る綺麗な令嬢にお茶をかけられた
突然のことでびっくりして唖然とした
「セシル様、大丈夫ですか」
慌てて護衛のカトレアが私に駆け寄ってきた
周りもいきなりの出来事に騒然としている
「シャロン あなた王妃様の前でなんてことを」
「だってお母様 どうしてこんな田舎娘がユリウス様と」と泣き崩れた令嬢
この方確か、シャロン・リクリーン公爵令嬢だ
彼女は私と同じ歳アカデミーでも同級生で公爵令嬢ということもあり目立つ存在だった
でも、多分彼女は私が同級生であったことも知らないであろう
「シャロン お主は全く・・・・」
「おばさま・・・・」
そう王妃はリクリーン公爵の妹でもありシャロンのおば様
だからシャロンはこういうことをしても平気なのだ
「セシル様早くお手当とお着替えを」
「カトレア、大丈夫です お茶はすでに熱くなかったから平気よ」
「王妃様大変申し訳ございませんが、本日は失礼させていただいてもよろしいでしょうか」
「ああ、それより手当と着替えじゃ部屋とドレスを用意しよう」
「いえ、結構です」という声が後から聞こえた
振り向くとすぐ後ろにユリウスが立っていた
「本日はこれにて失礼します」
彼はそういうと私を抱き抱えてそのまま立ち去って行ったのだ
「ユリウス様」とシャロンの叫ぶ声が聞こえてきた
はあ・・・・どうしよう確か1週間後にリクリーン公爵家のお茶会だったよね
と抱き抱えられながらそう思っていた
でも、ふといつもより近くにある彼を見ると無表情に見えるが彼の怒りが感じられた
ああ、この人私のために静かに怒ってくれているんだ
それと今更気がついたんだけど私この人に抱き抱えられて王宮内を歩いているのと我に返って恥ずかしくなった
「あの・・・・辺境伯様降ろしてくださって大丈夫です」
「問題ない」
「いや あの 恥ずかしいので」
「問題ない」
「く〜・・・・・・」
恥ずかしくて手で顔を覆ってしまった
もちろん、このお茶会の出来事とあの辺境伯が婚約者を溺愛しているという噂が速攻王都中に広まったのであった
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