第6話 銀狼様とある日の執務室

 婚約式まで王都に滞在することになった私に、お茶会の招待状が山ほど連日送られてきた


「きっと、辺境伯様の婚約者ってどんな娘かしらって送られているのが大半ですよね・・・」


 と辺境伯の執務室に山盛りになっている招待状をみてため息をついていた


「どうしても行かないといけないような家からのものは、セシル様頑張って参加していただけないでしょうか」


「ええ、スタン大丈夫ですよ 

 では、この山の中から選別していきましょう」


「セシル様 失礼ですがお茶会に参加の経験や作法はご存知ですか?」


「ああ〜、そうですよね ご心配になるのも無理ありませんよね

 確かにお茶会に招待などは受けたことはありません 

 でも、ご心配なくスタン

 あなたは、アンナ・マトレシア公爵夫人はご存知ですか」


「あの有名な淑女の中の淑女と言われていて王妃教育も手掛けていらしてる社交界の重鎮の夫人ですよね 知らないものはいない方ですよ」


「私、実はアカデミー時代マトレシア夫人の助手をアルバイトでしていたんです」


「え!」

 これにはスタンだけでなくその場にいたサマンサとジュシアも驚き辺境伯も書類を書いていたペンが止まった


「そうなんです、助手をしていたから夫人に色々教わっていますし、夫人のお茶会やサロンのお手伝いもしていましたから大丈夫だと思いますよ」

 とニコニコしながらセシルはこたえる


「でも、あの・・・どういう伝手で助手になられたのですか?」


「ちょうどアカデミー1年の時に休日に街に出た時に奥様がうずくまっていらしてね

 私が手持ちの薬を差し上げたの 

 そうしたら後日お邸に呼んでくださってそれがきっかけで仲良くしていただいたの」


「あの・・・ちなみに他にもどなたかお知り合いの方とかいらっしゃるんですか?」


「え?私の知り合いといえば年配の方ばかりでイワン・ガブリエル様にショーン・ラドラー様とかあとは・・・」


「セシル様、わかりました ありがとうございます」

 って・・・イワン・ガブリエル様は元将軍ショーン・ラドラー様といえば名宰相と言われ今でも国政に影響力のあるお方じゃないか

 なのにその辺の茶飲み友達のように言って・・セシル様って一体何者なんだ


「どういう知り合いなんだ」と辺境伯がポソっと聞いた


「どういうって時々お茶したりお手紙やりとりする程度ですよ」


 本当に茶飲み友達なんかい!!とスタンは心の中で突っ込んだ


「まあ、それでしたら安心ですわね ではドレスはいかがいたしましょう」


「では、今あるドレスを友人のお店で少し直していただいてもよろしいでしょうか」


「ああ」


「ご友人は洋品店を王都でされているんですか」


「はい、ユリア・マーキュリーってご存知でしょうか?

 本人はゆっくりしているからいつでもおっしゃってくださいって言ってくれてるんですが・・」


「ユリア・マーキュリー様って今1番人気のあるデザイナーの方ですよ」

 とサブリナが思わず会話に入って返事をしてしまうほど驚いた


「そうなのね、とりあえずお手紙を出してきてくれる 

 お返事いただけたらサブリナとサマンサついてきてくださるかしら」


「もちろんですわ、セシル様」

 と二人が満面の笑顔で返事した 

 今一番人気のあるデザイナーの店に行けることになり二人もかなり嬉しそうだ


 結局、お茶会は王妃からの招待状とリクリーン公爵家からきた2通の断れないものとセシルのアカデミー時代の友人リン・ロー伯爵令嬢のお茶会に絞ることとなった


「残りの方の招待状はそのままにしてお詫びのお手紙と共にお菓子とあとそうね 庭園のお花を少し分けていただけるかしら、ああ、私が直接庭師のジョンにお願いするわ じゃあ厨房と庭園に行ってきます」


 そう言ってセシルはサマンサを連れて執務室を出て行った


 パタンと扉が閉まった途端


「いやあ、驚いたな・・田舎の箱入りの伯爵令嬢だと思っていたのだが・・・」


「失礼よ、ジュシア しかもご主人様の前で・・・」


「ああ、失礼しました でもご主人様も驚きになられませんでしたか」


「いや・・・」


「領地に来た時から、少し他の令嬢とは違うと思っていたんですがね」


「アルバイトっておっしゃっていたから色々ご苦労されていたのかもしれませんね」


「どんなアルバイトされていたのか興味ありますね」


「もうスタンったら」


 そのあと三人はセシルが綺麗にラッピングされた手作りマカロンとブーケの山を見て更に驚くのであった


「さあ、お手紙書くから皆さんお届けの手配をよろしくね」


「かしこまりました セシル様」


 セシルの笑顔に引き寄せられて、みんなが笑顔で作業をしていた


 その様子を黙って見ながら、ついはじめて微笑んだユリウスを誰も気づくことはなかった

 そして、ユリウス自身も自分が笑っていることに気がついていなかったのである





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