第4話 銀狼様と王都へ
翌朝、王都へと出発した執事長のトーマスは領地で留守を預かる
サマンサともう一人侍女のマリィ侍従のスタンそして騎士団の方たちと私と一緒にザンダー領にきた使者様もご一緒だ
2日は宿に宿泊したが最終日の夜は、途中で野宿することとなった
騎士団の皆様に混じりながら夕食の手伝いをサマンサとマリィと行いみんなで火を囲みながらワイワイと食事をしていた
「使者様、体調はいかがですか?御者さんはまだ動けない状態なのでしょうか」
「ありがとうございます
私はもう大丈夫なのですが、彼はなにぶんにも怪我の箇所が頭だったのでもう少し安静にしてから王都に帰る手筈を辺境伯様がとってくださっていただいているのですよ」
「そうなのですね でも本当にご無事でよかった」
「セシル様の応急手当てがよかったとうちの医師も言っておりましたよ」
「ありがとう、でもスタン あれは見様見真似でしてね
ほらアカデミーで剣術大会行われますでしょ
あの時毎回私救護班の係だったので、お医者様に教わってやったことがあるだけで・・・・
実は正しいかどうかわからないままなんですよ 他の方には内緒ですよ」
そういうとみんながケラケラ笑っていた
相変わらず、ユリウス様は無表情だがモルトの入ったカップを持つ指にグッと力が入った
あら、あれはもしかして笑いを堪えているのかしら
そう思うとあの「孤高の銀狼」と呼ばれているこの人が少し可愛く思えてクスッと笑ってしまった
まだお会いしてから数日しか経っていないけど領地を出発してから一緒にいる時間が多いせいか
ほんの少しだけこの人の感情が伝わってくる瞬間がある気がする
もしかすると本当は感情豊かな人なのかもしれない・・・・
どうして表に出せないんだろう・・・・ なんだか少し悲しいよね
パチパチっと音のなる揺れるオレンジ色の炎の向こう側の彼を見ながらそう思った
翌日、まず使者様と王宮で馬車から降ろした
「使者様、色々ありがとうございました」
「セシル様 私の方こそ本当に感謝しております あなたのお幸せを心よりお祈り申し上げます」
そう言って彼は深々と私たちにお辞儀した
そして、王都のザンダー辺境伯邸にお昼前に到着
降りる時にはちゃんとユリウス様がエスコートしてくれた
まあ、婚約者なのだしするのが当たり前なんだけどこの人にしてもらうと特別感があるのは私が彼に対して先入観を持ち過ぎているせいかもしれない・・と彼の手を取りながら少し反省した
邸宅では使用人たちが並んで待っていてくれた
「辺境伯様おかえりなさいませ」
中央に立つスラリと背の高いメガネをかけたブラウンの髪色の男性が挨拶すると一斉に使用人が
「おかえりなさいませ」と礼をする
領地とはまた違った雰囲気だ
「うむ、こちらは婚約者のセシル・ゴールドウィン伯爵令嬢だ」
とユリウス様が紹介してくれた
「セシル・ゴールドウィンでございます よろしくお願いします」
「王都ザンダー辺境伯邸の執事長にジュシアでございます
よろしくお願いいたします」
「ジュシアさん・・・・」思わず彼の顔をじっと見てしまった
「あの・・・もしかしてサマンサの息子さん?」
「そうです、セシル様長男のジュシアでございます」
サマンサが嬉しそうに紹介してくれた
「そうですよね、お父様のトーマスによく似てらっしゃいますね」
「コホン、またそのお話は後ほど中で・・・」
と照れくさそうにジュシアがいい邸内へと案内された
案内された部屋はユリウス様の隣の部屋真っ白な部屋に花をモチーフにした装飾
バルコニーに出ると邸内の庭園と王都が一望できる
「素敵なお部屋ですね」
「ええ、こちらは代々の奥様のお部屋です」
「私が使ってもよろしいのでしょうか」
「ええ、そのようにユリウス様から申しつけられております」
とにっこり笑いながら荷物を片付けてくれているのはこの邸の侍女長であるサブリナ 彼女はジュシアの奥さんであり二人の間にはミリアムという1歳の娘さんもいらっしゃるらしい
本当に家族でユリアス様を支えているのだと改めて思った
明日は王宮にあがるということで侍女の皆さんが念入りにお手入れをしてくれた
「セシル様、お肌ツヤツヤでございますね どんなお手入れを普段されているのですか」
「特には・・・・でも私の領地では養蜂をしておりましてもしかしてはちみつを使った化粧品を作って使ってるせいかしら?」
「はちみつ・・・ですか? あの食べるはちみつ?」
侍女さんたちの目が一斉にキランと光った
「よかったら、沢山ありますので後程・・・」
そう言って後で皆さんに分けてあげたらすごく喜んでくれ
またお手入れの話やみんなの色々な話が聞けて楽しい時間を過ごすことができた
食事を終えて部屋に戻り眠る準備をしていたのだがふと思い立ちバルコニーに出てみた
庭園の花が夜露でキラキラしている
向こうに見える王都の街は住む人の家の灯りがあちらこちらにまだ灯っていた
やっぱり王都だな・・・星の光は領地の方が綺麗ね
そう思いながら眺めていると微かに楽器の音色と歌声が聞こえてくる
街から?いえこの邸内よね・・・あの音色
気になってしまってガウンを上から羽織り音色の方向へ辿っていった庭園の奥の東屋に人影と動物たちがいた
あら、あの人・・・あの宿屋で出会った吟遊詩人のシャドだった
私の気配に気づいて驚いたのかシャドが演奏をやめて立ち上がった
「え?どうして防音魔法かけていたのに・・・」
「わからないけど、微かに聞こえてきたの」
「もう少し頑丈にかけてみる」
「それより、あなた不法侵入じゃない見つかったらその場で処罰されてしまうわよ」
「そんなヘマはしないさ 君が見逃してくれたらね」
とシャドは笑う
「もう・・・・そうねじゃあ1曲ちゃんとあなたの歌を私だけに聴かせてよ
そうしたら今回は見逃してあげるわ
その代わり二度とこんなことしないでね」
「うん、わかったよセシルお嬢様」
ブズーキを奏でながら彼は甘い恋の歌を歌う 愛する人への子守唄
ブズーキの奏でる切ない音色と彼の少し掠れて甘い声が心に染みる
夜風が吹き、彼の甘い木の香りと彼の歌が重なりあいながら私の元に流れてくる
「ありがとう、シャド じゃあ見つからないようにね もう忍び込んだりしてはだめよ」
そう言って彼に手を振り別れた
ところで、私いつ彼に自己紹介したっけ?
あの宿屋の時かな・・・ まあいいか・・・でもまた彼の歌を聴きたいな
まだ耳に残る彼の歌とブズーキの音色を思い浮かべながら部屋の扉を閉めた
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