第101話 最後の鍵

 リルの母ジュリアは、この世界に召喚されたのではなく母のいた世界で大きな激震から生まれた空間の歪みによってこの世界に落ちて来た「渡りびと」と言われるものだと父上から聞いた


 父上が6歳の時に朝、演習場に行こうとした時、ジーザメリウスの屋敷の庭に泥だらけの寝間着をきた女の子が泣きながら立っていた 

 それがリルの母ジュリアだった 


 一人息子しかいなく娘の欲しかったその当時のジーザメリウス辺境伯夫妻はジュリアをそのまま娘として養女にし育てたのである 

 愛らしく優しい娘が突然できたジーザメリウス家は天使が舞い降りたかのように明るくなっただが、彼女は、少し普通の子とは違っていた

 後に100年に一度しか現れない聖女と呼ばれるほどの膨大な聖力の持ち主だったのである


 そんな彼女と剣士としても、魔術師としてもトップクラスの実力を持つ

 ズメイルインペリアル帝国国王ポーラリス カラリス ズメイルインペリアルとの間に誕生した息子はその小さな体では、受け止めきれない魔力を持っていた

 その事実は彼がジュリアのお腹にいる時にニコラス・グリーが見つけていたのであった


「ニコラス、じゃあお腹の子供は産まれるとともに死んでしまうということなのか」


「ああ、多分このままでは・・・・・」


「ただ一つだけ方法がある

 彼の核の中に君たちの魔力・聖力を注ぎ込み受け入れるための器を作ってあげるんだ」


「それでこの子が助かるなら全て注ぎ込んであげてもいい」

 俯いていた顔をあげ強い瞳で二コラスをみつめながらジュリアが言った


「ジュリア

 そうなると君も、ポーリィーも全ての力がなくなってしまうんだぞ」


「ニコラス、私は大丈夫だ 

 たとえ魔力が全て無くなってもジュリアとこの子さえ傍にいてくれればそれでいいんだ」

 そう言ってポーラリスはにっこり笑った


 ポーラリスの両親も、昨年流行病で相次いで亡くなったそのせいもあってか家族への愛情が深い、執着というものに近いかもしれない


 ニコラスとジュリアの義兄のコントレール・ジーザメリウスの立ち合いの元「それ」は行われた。


 いきなり一度にではなく少しずつ、少しずつお腹の中にいる胎児の核に愛情とともに自分の力を注いでいく


 そして彼が誕生するまでに彼等は全てを注ぎ込んだ


 リアイアルの中には膨大な魔力と聖力が遺されている 

 魔力の解放はされていても自分自身の中にある「鍵」をまだ解放されていない

 最後の「鍵」の在処をまだ彼は知らない


 ニコラスもコントレールも「鍵」のことも「鍵の在処」もわかっているもののそれ以外のことは何もわからないのである

 全てを知っているのは「認証」されていたポーラリスだけであったから・・・・・・・


「本当に、ポーリィも1番肝心なこと俺たちに遺していかずに逝ってしまいやがって」


「コンティ、それは俺たちも同じかもしれないな

お互い今の内に何でも話しておかないとな」


 ニコラスとコントレールは、酒を傾けながらリルに最後の鍵の話をするタイミングを相談しながら頭を抱えていたのである


「本当にあなたたちは、いつもぐずぐずと、もうその時が近づいているのであればさっさとリルに話せばいいのよ

 あのこは賢い子だから事実を把握していたらちゃんと対処するわよ」

 とシルフィが間に入って2人に一喝を入れた


「あなたたち本当にリルのことになると・・・・。本当に親バカね」

 そう言って笑った

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