第47話 ドワーフの森

 ようやく龍の広大な居住区から森に入った

 森の中は一転して木々が覆い繁り日中とは思えない程薄暗かった

 ブルーとホクトは大きな体だと森の中では動きにくいのかまた体を小さく変化していた

 森の中では大なり小なりいろいろな魔獣が所々で襲ってくる


「ふっ、まるでゲームの世界だな

 そういえば、前世でもよくやったな」


 でもここはゲームの世界ではない対峙しているのは本物の魔獣だやられたらおしまいだ

 コンティニューもリセットもできない

 1番始末が悪いのは意外にもスライムだ切っても爆発させても分裂したり小さくなって逃げ込んだりなのだが、木の棒で何度も叩くと消滅する

 とにかく面倒臭いやつなので見つけたら関わらないように避けて歩いていた


「ふ〜、森の出口はどこなんだ」


 空を見あげてもヘイロンの姿も木が多い茂っているので確認できない

 小さな魔獣の鳴き声が所々から聞こえていたのが急に静かになった


「ブルー、ホクト大きな奴が来るかもしれないぞ

 そろそろ元の大きさに戻れ!」


 大きな足音が、少しずつ近づいてくるのは感じるがどこからくるのかがわからない……

 足音が止まった……

 シンとなった沈黙の森に緊張感だけが走る……


「どこからくるんだ……」


 その途端、轟音とともに木々を薙落とす音と共に巨大なサラマンダーが炎を吐きながら右側から飛び出してきた

 サラマンダーに一撃も返すことなく、吹き飛ばされ左側にあった緩やかな側面の崖から下まで滑り落ちた


「くそっ!」

 滑り落ちた拍子に頭を打ったようでそこから意識を手放した


      ◇◇◇◇◇◇


「こら、おとなしくしないか」

「腹が減っていたようだな」


 誰かの話し声で目が覚めた・・・・

 部屋の明かり? なんだか随分と久しぶりな気がする

 徐々にうっすらと瞼が開いていくと


「おお、気がついたようだな」

 目の前にドワーフのおじさんの顔があった


 あまりの顔の近さに驚いて飛び起きて後退りしてしまった


「なんじゃ、人の顔見てそんなに驚くとは失礼なやつだな」

 とドワーフが大声で笑う


「申し訳ございませんでした

 いや、ちょっとびっくりしてしまって…… うっ痛っ 」


「いやいや、冗談だよ、無理しなさんな

 多分、この森を抜けた高い山に住む魔獣どもの中の主であるサラマンダーにやられたんじゃろ 

 あいつに飛ばされて生きている方がおかしいわ」


「ご迷惑をお掛けして申し訳ない

 すぐに治癒魔法をかけて出発いたしますので…… うっ…… 」


「無理しなさんな

 今は、治癒魔法も使うのが厳しかろう。

 しばらくここで養生するがいい」


「でも・・・・・」と、戸惑いながらいうと


「お前さん、こんな剣で、魔獣と戦えると思うか? 」

 ドワーフのおじさんはそういうとニカっと笑ってぐにゃりと曲がった俺の剣を掲げた


「すみません・・・・・・しばらくお世話になります

 私は、リル・ジーザメリウスと申します」


「遠慮するな、わしの名前はクローネじゃ。あとでわしの仲間も紹介しよう」

 とクローネが言い終わろうとした時


 グキュルルルル〜


「その前に、腹ごしらえだな、何しろ2日間も眠っておったからな」


「2日間! 数時間の出来事かと思っていました。 それと私の連れは……」


「あいつらなら向こうで飯を食ってるよ

 飯が済んだらこっちにくるだろう」


 そう言いながら、クローネは温かいスープとフカフカのパンの乗ったトレーを俺に手渡した

 食事を終えた3頭は、俺に気がつき駆け寄ってきた


 心配かけたな ごめんな……

 3頭の頬を撫でていると安堵感に溢れ、クローネにもらったスープをスプーンで掬い、口に運んだ

 スープは体に優しく染み込んだ・・・・


 ドワーフのクローネさんの家でお世話になって2週間

 俺の傷は1週間程で治っていたが残りの1週間はドワーフの皆さんにお世話になった御礼に里のあちらこちらの古く傷んだ箇所を直していたりしていた


「よし、この水車小屋で最後だな」 ふぅ〜と、額の汗を拭う


「リル、お疲れ様冷たい水しかないが飲んでくれ」


「アンリおじさん、ありがとう冷たい水最高ですよ」

 とアンリおじさんの手からカップを受け取りゴクゴクと喉を鳴らして水を飲み干した


 ドワーフたちは、最初に会った時は気難しい感じがしたが、好奇心旺盛で物知りで心の温かい人たちばかりだ。


「おお、リルおかえり。お茶でも入れようか」


「フローネおじさん、ただいま帰りました

 ありがとうございますその前にお話したいことがあります」


「ふむ、表情から察するに大事な話のようじゃな

 腰を据えて聞いた方が良いようじゃな」


「ありがとうございます」

 食卓の椅子に腰掛けるとクローネが紅茶の入ったマグカップをコトンと置いた


 俺は今までのことを全てクローネに話した

 今まで誰にも話したことのない「北斗」のことまで……

 俺の話を黙って聞いていたクローネがゆっくりと口を開いた


「ふむ、それでリル お前はこれからどうしたいんだ

 魔力を解放したいだけなのか?

 ただサタームスに親の復讐をして皇位を奪い返したいだけなのか?」


「クローネおじさん 本音を言うと俺、実の両親の記憶が思い出されていないんです……

 最近では顔も記憶の中で薄らいでいる……

 全てをかけて守ってもらったというのに薄情な息子でしょ」

 思わず苦笑いをした


 クローネはまっすぐ俺を見つめ話を聞いてくれている


「実は何度も、ズメイルインペリアル帝国が、どういうところか隠れて行っているんです

 帝都民も、どの領民も街にも村にも活気も笑顔がなく

 ただ、ただ高い税金を払っていくだけのために働いていた

 以前は、俺の父親が治めていた数年前は心豊か穏やかな国だったと人々が口にしていました

 俺は、両親を殺したサタームスが憎い・・・

 両親が大切にしていた国をこんなふうにしてしまったあいつが憎い

 サタームスを討ち、ズメイルインペリアルの人々がもう一度穏やかに笑顔で暮らしていける国に作り替えたいんです。

 口で言うほど容易くないことはわかっているけど俺がやらないとダメなんです」


 クローネは黙ってうなづいて聞き続けていてくれた


「でも、俺…… リアイアル ・ラーセル・ズメイルインペリアルに戻ってしまうと俺はリル・ジーザメリウスで無くなってしまう……

 コントレール父上の息子では無くなってしまう… 」

 涙がポタポタと落ち止まらない


「いや!それは違うぞ リル!」クローネが初めて声を荒げた


「何があってもお前はコンティの息子だ」


 そういうとガタンと席をたち奥の部屋へといった

 クローネは奥の部屋から細長い大きな箱を持ってきた

 箱をテーブルに開けるとミスリルソードが現れた


「この剣は2年前にコンティ……

 コントレール・ジーザメリウスが大きなミスリルと黒曜と深い蒼い魔石を持ってきてだな 

 いつか息子がこの森に来るかもしれない

 その時までに剣を作って息子に渡して欲しいと頼まれておったのじゃ」


 ショートソードより少し長めに感じる刀身は白銀に光輝き、

 柄の部分は黒く深い蒼い色の魔石が組み込まれていた


「クローネさん この剣…… 」


「そうじゃよ、伝わって来るじゃろ

 何があってもリルは俺の息子だ!というコンティの気持ちが……

 わしはコンティとポーラリス共に旧知の仲でな・・・ 

 あいつらがどれだけおまえさんの事を大切に思っているか知っている

 コンティがどんな思いでお前を探し、そして育ててきたか……

 リル、2人の父親の愛情をもっと信じてやれ! 揺らぐのではない!」


 父上はいつもそうだ

 俺の気持ちを考えながら俺のいく道を黙って照らしてくれる

 いつも先を見据え支えてくれている……


 俺は泣きながら ただ、ただ頷いた 


 ようやく気持ちが落ち着いたところで

「クローネさん、俺明日この里を発ちます。

 ありがとうございます」

 と言葉に出した。


 その夜、明日発っていく俺たちのためにドワーフ達が宴を催してくれた

 俺もギターを弾き歌い、楽しい夜が更けていった


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