第40話 彼女の願い

 グランシス侯爵家を出て馬車に乗ろうとしたら、ポケットの中にいたマシロが急にピョンと飛び出て侯爵家に戻ってしまった


「マシロ! しょうがないな…… 引き戻すか

 すまない暫く時間がかかりそうだ」と従者に伝え邸に戻った


「失礼します リル・ジーザメリウスです

 実は私のハリネズミがお邸に入ってしまいまして……」


 玄関ホールには、グランシス侯爵とクラウス先輩が難しい顔をして立っていた


「あ、リル様 よく戻りくださいました 何か誤解をさせてしまったままお帰りいただいたようで、どうしようかと思案しておりました」

 グランシス侯爵は、先程の難しい表情から一転し満面の笑顔で迎えてくれた


「あの、実は私のハリネズミがお邸に入ってしまって…… 」


「ハリネズミって、あの真っ白いマシロちゃん?」


「クラウス先輩、そうです申し訳ございません」


「あのこかなり、小さいよね

 邸のものにも、探すように申し伝えるよ

 俺も一緒に探すからすまないが、先に愚妹の部屋に一緒に行ってくれないか」


「ハイネ嬢、気がつかれましたか

 よかったです・・・・ 

 お許しいただければお見舞いに伺ってもよろしいでしょうか」


「ぜひ、そうしていただければ

 それとこの花束もう一度君から妹に渡していただいてもよいだろうか」

 そう言ってクラウス先輩に持ってきた薄いピンク色の薔薇の花束を渡された


 コンコン


「リル・ジーザメリウスです 入ってもよろしいでしょうか」


 侍女が、ハイネ嬢の部屋の扉をあけてくれて部屋に入ると

 ソファに座るハイネ嬢の膝の上にマシロがちょこんと座っていた


「マシロ! 先程といいマシロまでご迷惑をお掛けして申し訳ございませんでした」

 ソファから立ち上がるグランシス侯爵夫人とハイネ嬢に深々と礼をする


「頭をお上げください リル様

 こちらこそ娘が大変申し訳ございませんでした

 緊張していた上に思いもかけないお申し出に驚いてしまったようです」


「ジーザメリウス様、本当に申し訳ございませんでした」

 とハイネ嬢も立ちあがろうとするが膝の上からマシロが動かないので

 どうしていいか分からずオロオロしている


「ハイネ嬢そのままで、」

 ソファに座り膝にマシロを乗せた彼女の前で片足を跪き

「私をパートナーとしエスコートさせていただくことをお許しいただけますでしょうか」と花束を手渡した


「あの…… 本当に私でよろしいのでしょうか? 」


「はい」


「よろしくお願いいたします」と真っ赤になってハイネ嬢は応えてくれた


 ふ〜、どうなることかと思ったのは、リルだけではなくハイネ以外ここにいる全員の気持ちだった


「それでは、お茶のご用意でもいたしますね

 リル様もお掛けになってください」

 夫人に促されソファに腰掛けお茶を囲み夫人とハイネ嬢と談笑しながらこれからのスケジュールを決めていく

 途中、ハイネ嬢が思いがけない事を言い出す


「あの…… 私ひとつお願いがありまして私がジーザメリウス様のパートナーになること当日まで誰にも言わないでいただきたいのです……」


「???」

 俺と夫人は2人ともなぜ?という表情になった


「どうして秘密にしないといけないの?」夫人が先に口を開いた


「あの、私のような平凡な何も取り柄のない子なんかがジーザメリウス様のパートナーになるとあまりにも格差がありすぎて・・・・

 やはり、いい気がしない人もいると思うので…」


 平凡?? いや普通に見ても、桜の花のような優しいピンク色の長い髪に薄いエメラルドグリーンの大きな瞳 鼻筋も通っていてこぶりな口元

 前世でアイドル出来そうなくらい可愛いと思うが……

 確か、しかも薬草学においては学年1位ですでに研究室からも声がかかっていると聞いたが…… それで平凡で取り柄がないというのか ふむ…


「夫人、どうも御息女は自分を過小評価する懸念があるようですね 

 ここはもう少し自分をもっと知っていただきたいと思いますので私の思った通りにご準備させていただいてよろしいでしょうか」


「え? あ、はい・・こちらこそよろしいでしょうか」


「もちろんです 夫人も御息女の初めてのお支度なのでご希望があると思いますのでぜひご意見いただけますでしょうか」


「はい、ぜひよろしくお願いいたします」と夫人と固い握手をする


「グランシス嬢今からお名前でお呼びしてもよろしいでしょうか? 

 君も私を名前で呼んでください」


「ええ!! あ、はい」


「それと、ハイネ、君のお願いは聞き入れます 

 当日になるまで家族のもの以外には秘密にしておきます 

 当日みんなを驚かせてやりましょう!ハハハ!」


 とその後はスムーズに話し合いは終わった

 邸に帰り母上に報告すると母上は俄然やる気になり


「その過小評価のご令嬢 誰にも負けないご令嬢にピカピカに磨き上げましょう!

 早速グランシス夫人に連絡しなきゃ!

 資金は全てリルあなたから出すことで本当にいいのね」


「大丈夫ですよ 商会からの売上金が手付かずで溢れていますからお好きに使ってください

 経済を循環しないといけないですしね 母上 」


 パートナーが決まったことだし、俺はダンスの特訓をするとしましょうか

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