第5話 魔法と剣 魔法理論の授業


「おはようございます リル様」

 

  目が覚めるとカーラが立っていた

マーサとジェニーがカーテンをあけながら身支度の用意をしていた

 俺の顔をみるなり「リル様! どうされたんですか! そのお顔!」とマーサとジェニーが声を揃えて驚いた

昨日思い切り泣いたせいか 目も、顔もパンパンに腫れていた


  カーラが顔を優しく手で包み込み 腫れの具合をみている間 ジェニーが慌てて冷やす物を取りにいき、マーサは、身支度の用意を続けてくれた


「本日は、朝食後 旦那様が旦那様の書斎に来られるようにとの事でございます

せっかくの素敵なお顔なんですから綺麗にしていかれないといけませんね」


  カーラは、そういいながらマーサと一緒に俺の着替えをしてくれた

  ジェニーが 温かいタオルと冷たいタオル両方用意してくれ腫れた顔をケアしてくれた。

先程よりマシになったが、やはり腫れてる


  恥ずかしいなと思いながらも、3人に 「ありがとう」と言った

  朝食を食べ終わると見計らったように ここに着いた時、一番前で出迎えてくれた紳士が来た


「リル様、ご挨拶が大変遅くなり誠に申し訳ごさいません。 

私は、シーアスと申します。

ジーザメリウス家の筆頭執事でございます 

旦那様のお部屋にご案内させていただく前に少しお話をさせて頂きます」


 コントレール・ジーザメリウス辺境伯は、ポールステンシャル王国 国王の弟 つまり王弟殿下ということ

だから「殿下」と呼ばれているという事だった

 そうだよな 俺が旦那様というのもおかしいし、設定が「息子」であっても「パパ」とかいうのも何だかなぁ


「あの〜、この家の奥様というか、殿下の奥様は? 」


「いらっしゃいません」と シーアスは、溜息まじりに即返答してくれた


  なんとな〜く微妙な空気になったところで、「殿下」の部屋に案内される

「殿下」ともうひとり 金色の長い髪の青い瞳の長身の男性がいた


「リル様でございますね。私は、グーゼラス・カールと申します  今後ともよろしくお願いいたします」と丁寧な挨拶をされた


  「リル、そこに 」と殿下がソファにまねく

  ソファに座ると向かい側に殿下が座った

  「仕事がかなり溜まっていて会いにいけなくてすまない どうだ、困っている事などないか? 」

  や、優しい………… と、殿下の後ろでさっきまで無表情だったグーゼラスが驚いた顔をしている

 

「ここからは、少し長い話になるからグーゼラスお前も座れ 」

  そう言われるとグーゼラスは、俺の隣に腰掛けた  殿下とリルの父親ポーラリス皇帝、グーゼラス あともう一人ニコラスという人は、 学生時代の友人だった


  中でも殿下と父は、幼い頃からの大親友だったそうだ 

母のジュリアも、幼なじみで長い付き合いだった 

父と母が亡くなり葬式の後、叔父に皇位を奪われ命を狙われ 城から消えてしまった「リル」をずっと探してくれていたのだ


「自分に何かあったら、お前を守って欲しい 」

とずっと頼まれていた 

今、思うとサター ムスの事を言っていたのかも知れない」

 水晶宮の事は聞いていたが、詳しい場所は、知らなかったそうだ


「それで、ここからの話だ

お前は、私が11年前旅先であった娘との間に生まれた息子だ

彼女は、ずっと私にはわからないよう一人でお前を育てていたが、やっと私が探しあてた時には、彼女は亡くなっており お前を引き取ったという事にする」


「え! そんな人いたんですか?」グーゼラスが驚く


  「いるわけないだろう! 」

と、殿下がめちゃくちゃ怒る


  「………… 」そんなやりとりをするふたりになんとも言えない俺

俺の本当の正体 は、グーゼラス シーアス カリアス ティコ シファー 、そしてカーラしか知らない


「これからお前は、リル・ジーザメリウスだ 

でも、いつか…………」 と言いかけやめた


  「あの…………ところで 僕は、僕の家系は 、殿下のように魔法が使えないのでしょうか? 」この間から気になっていた事を聞いた


  「殿下 ? 」

 ムスッとしてる、急に不機嫌な顔になった 

え? 何? なんか変な事言った?

と焦っていると グーゼラスがクスクス笑いながら


「リル様 殿下ではなく、父上 か お父様でしょう 」


  「グーゼラス!笑いすぎだ! 」


  「ち……父上 」そう呼ぶと、びゃー! なんか恥ずかしい ……


  コホンと咳払いし、殿下 いや 父上が少し照れながら口を開いた


「魔法か…… 実はお前の魔力は、とてつもなく多い 多すぎて、今のお前の体では、受け止められない

お前が生まれた時、お前の父親がお前が15歳になるまで魔力が使えないように魔法の枷をつけたんだ

15歳になるまで、お前は、心と身体を鍛えて自分自身の魔力を受け止められるようそして 魔力を使いこなすための知識も養わなければならない……できるか?」 と、強い瞳で俺を見つめる


「やります! できます!やりとげます!」


 トップアイドルになる為、ずっとずっと努力し続けた俺だ 絶対やり遂げてみせる

  魔力を受け止め、強くなる  そしていつか サタームスからズメイルインペリアル帝国を取り返してみせる 15歳になったら魔力が溢れる それまでに自分自身を鍛えないと魔力が受け止めらない場合、一体どうなってしまうんだろう

  でも、 それは誰にもわからないらしい それ程 俺の魔力は、桁違いに多いらしい


「今日から 剣とあと 教師をつける

 ああ、それと 今日から できるだけ一緒に食事をする 

 何かあれば食事の時にでも…………

いや いつでも相談してくれ」

 と、父上は、手をひらひらさせながら言った

  今日から剣と勉強か………… 久しぶりに身体が動かせるなとワクワクが止まらなかった


  コンコンとノック音とともに 「殿下、カリアス参りました」と、声がした


「入れ 」


  扉を開け赤い髪のカリアスが入ってきた

初めて出会った時とは、別人の様に騎士の制服を身につけたカリアスが、そこにいた


  「リル、カリアスが今日からお前に剣を教える 」


  「リル様 よろしくお願いいたします 」

とカリアスが深々と礼をする


  え? あのカリアスだよな 戸惑いながらも、「よろしくお願いいたします」と礼をした。


「では、参りましょう」


  「カリアス、よろしく頼む」と父上がコクリと頷く


  カリアスに ついて行き、1階におり長い廊下を通り屋敷の南側にでると、 男達の声と剣を交える音が聞こえる。ここで、これから稽古がはじまるんだ

  アイドル時代 練習生として初めてレッスン場に入った時の様な、 いや、それ以上の胸の高まりが抑えきれなかった


◇◇◇◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇◇◇ ◇◇◇◇◇◇◇◇


「はい、リル 今日は、ここまで!」


「ありがとうございました。」


「このあとは?」とカリアスに質問される


「師匠、実は今日から魔法理論の勉強が始まるんですよ 」


あれから4年 はじめて剣の練習を始めた頃は、剣の握り方からだったが 今ではカリアスと剣を交えて練習するようになった 

でも、まだカリアスにはまだまだ 敵わない


「だいぶ、背も高くなってきて、身体もしっかりして来たな 

はじめて会った時は、黒ネズミだったのに!」

と、ガハハと笑いながら言いながら頭をガシガシする


「もう!師匠!」という俺の反応をみてまたガハハと笑う


「リル様 、カリアス兄様」 という声で振り向くと、マーサが演習場に迎えにきていた。

実は、マーサは、カリアスの妹だったのだ。

ジェニーは、あれからジーザメリウス家の騎士と結婚して、違う部署に移動になった


今は、俺の専属侍女は、マーサ一人だ 

父上は、侍女を、もうひとりつけようかと仰って下さったが、大体自分の事は、自分でできるし余り沢山侍女がいても、逆に窮屈だ

マーサが休みの時は、カーラや別の侍女が来てくれる 

以前、マーサが体調を崩し急に休んだ時に、侍女を呼ばずに自分で何もかもしていたらカーラにめちゃくちゃ怒られた


「坊っちゃま、私達の仕事を奪うつもりですか!」

ってね


怒る所そこなんだ〜 と、笑ってしまった。

それからは、気をつけるようにしている。

2年前に、ズメイルインペリアル帝国が平和協定を破り、ポールステンシャル王国に攻め入ってきた 

ジーザメリウス家の活躍により、あっという間にポールステンシャル王国の圧勝に終わった


その時、騎士と侍女たちがやたら結婚したんだよなぁ、ジェニーもそのひとりなのである

そしてその相手というのがなんとカリアス!

なので、ジェニーは、マーサの義姉にもなったという事だ

汗を流し、服を整え、自分の書斎で 「魔法理論」の教授を待つ


「先生がお見えになりました」

シーアスが、先生を案内してきた


「はじめまして、リル様 魔法理論の授業を担当させていただきます

ニコラス・グリーと申します

どうぞよろしくお願いいたします」


黒髪にエメラルドグリーンの瞳 細身だがガッチリしているのが、 マントをしていてもわかる


「はじめまして、グリー教授、

リル・ジーザメリウスですよろしくお願いいたします」


「ニコラス」という名前に俺は、気がつかなかった 

その名前を父上から聞いた事があった事を思い出すのは、この日から随分後のことになる

グリー教授の授業は、わかりやすく、とても興味深い内容だった


「リル様は、勉強熱心なよい生徒ですね」

と褒めてくれた


「ところで、そちらのハリネズミは、リル様のハリネズミですか」

 グリー教授は、書斎のソファで眠るマシロに興味を持った


「はい、マシロといいます。」


グリー教授は、マシロに近づき、じっとマシロを見つめる。視線を感じたのか

マシロが目を覚ましグリー教授を見つめている


「この、ハリネズミ … リル様必ずいつもお傍においていてくださいね。 では次回 は、二日後に参ります。 それまで本日だした宿題は、必ず提出できるようにしておいてください」


「わかりました、ありがとうございました」

と、返事をすると、


ニコリと笑い軽い会釈をしてグリー教授は、扉を開いた


「ジュ…… 」 グリー教授が何か呟いたが、聞こえ無かった

そのまま扉が、バタンと閉まった


いつも傍らに…… か… と、マシロと見つめ合った、 マシロは、起き上がりテクテク歩いて俺の手の甲にスリスリと寄ってきた


「マシロ、お腹すいたか?おやつでも食べるか? 」

マシロに テーブルに置いてあったクッキーを渡すと器用に手に持ち、もきゅもきゅと食べはじめた


「これからも、ずっと傍に居てくれよな マシロ 」

マシロは、いつしか俺にとって、 いつも傍に居て当たり前の存在になっていた

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