第4話 北斗


 ベッドに、入るとここにきてからようやく落ち着いてきたせいか


  「北斗」の頃の事を考えた


 俺「北斗」は、生後1ヶ月くらいの時に孤児院の前にあまり見かけないような細工をされた籠に布に包まれていれられ置き去りにされていた


 名前も、本当に生まれた日もわからない

「星崎北斗」という名前は、金木犀の香りが漂う夜 園長先生が俺を見つけその時秋の夜空に珍しく北斗七星が一際輝いていたからと理由で名前をつけてくれた

 それからずっと孤児院で15歳まで育っていた


 アイドルになったきっかけは、12歳の頃修学旅行で京都に行った時に丁度映画撮影のロケをしている所の近くを歩いていると、事務所のマネージャーに声をかけられた


 正直言って、実はダンスや歌は凄く興味がありテレビを見ながら孤児院の友人とアイドルの真似をしていたりした


 すぐに事務所の社長とマネージャーが孤児院の園長先生に挨拶に来られて

 次の日から練習生として、ダンス、歌、演技のレッスンをはじめた

 沢山オーディションを受けては、落ち 受けては、落ちの繰り返し

 先輩のバックダンサーをしながら レッスンとオーディションと学校の往復ばかりの毎日だった

大学で映像の勉強をしたいから学校の勉強も疎かにしないようにした


 14歳の時 学園ドラマの主人公に抜擢され、そのドラマが大ヒット

 視聴率がいいからと途中挿入歌まで任されたらその曲も大ヒットした


 それからあれよあれよという間にトップアイドルまで登りつめた


 15歳になってからマネージャーの沢渡さんと同居し、あの「崖の事故」までは、二人三脚で頑張ってきた


 沢渡さんは、俺より10歳歳上 マネージャーであり頼もしい兄貴だった

 学校の勉強もだし、バイリンガルの沢渡さんに外国語も教えてもらった

 ふたりで、いずれは、歌でも役者としても世界のトップに! と夢に向かっていた


「沢渡さん…… 社長 スタッフのみんなどうしてるかな

 映画俺の事故があったからダメになったかな… 凄く台本も、監督、スタッフみんな良かったのに楽しみにしていたファンのみんなごめんね 悲しんでるかな」

 

  ごめん… ごめん ごめん ごめん この言葉しか思い浮かばない

涙が溢れてとまらない


  俺 なんであんな所から落ちてしまったんだ!!


  そう思った時 頭の中で あの時の瞬間がフラッシュバックのように蘇る。

  崖の端での撮影 怖いなと思いながら


  「シーン24 崖に追い詰められ対峙する翔と康平 本番いきまーす」


  カチンと カチンコの音


  崖に追い詰められた瞬間 足元にチクリと凄い痛みがはしった!

 

  「痛!」と言ったと同時 体勢を崩し崖から落ちた


  遠くでみんなの叫び声が聞こえながらそのまま落ちていく

  そこからの記憶がない 痛みも覚えてない

 

  泣きながら改めて残していった人達を思う


  ごめん… 沢渡さん ゴメン ファンのみんな応援してくれたのにゴメンよ


  静かに夜はふけていく 声が聞こえないよう布団に包まる

  マシロが心配そうに寄り添ってくれる

  でも その夜は、泣きつかれて寝落ちるまで涙と嗚咽が止まらなかった

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る