第15話【届け】

「これより、練習試合を始めます。気をつけ、礼」

『おねがいします!』

 コイントスにより俺達の先攻。

ピーッ、キックオフ。

結果、三対二。

『ありがとうございました!』

一息ついて、俺達は観客席に戻った。

「強かったなぁ、今日の学校」

晴也が感想を述べている。

「ああ、パスコースが少なくて焦ったよ‥‥」

「だろ?‥‥先生、どうやって練習試合持ってきたんですか?」

「あっちから言ってきた」

「…………もしかしてデータ取りに来た感じですかね」

「あり得るな、というか多分そう」

「なら良かったです。燕返し含め、俺はシュート撃ってませんから」

「音花、よく考えてるな」

「まあ、このくらいなら」

 ただ、あのFD‥‥ボールを取りに来たアイツは要注意だ。

(ボールのタッチが上手い‥‥ドリブルだけでは抜けなかった‥‥パスの調整も必要か)

「さーて、飯にするか」

『はい!』

 バッグを開けようとした時、チームメイトの視線が一点に集まっていることに気付く。

「何見てんだ―――? ‥‥あ」

(白雪か‥‥)

「なあ新、なんで白雪さんがいるんだ‥‥?」

「知らねぇよ。なんで俺に聞くんだ」

「だって、今までなかったじゃん。白雪さんが来たこと」

「‥‥だから?」

「白雪さんと友達になったんじゃないかと思って!」

(こいつ‥‥勘良すぎだろ‥‥まあ友達じゃないけど‥‥)

「…………ん?」

(なんかこっち見てる…………?)

「あの弁当………」

 白雪が持っている弁当のうちの一つ。俺が持っているはずの箸ケースと風呂敷がある。

「まさか…………」

急いでバッグの中身を確認する。

(ない…………忘れてた!)

すると白雪は観客席から降りて倉庫の方に歩き出した。

「ちょ、まって…………」

「新? どこいくんだよ」

「野暮用!」

俺は全速力で倉庫まで走り抜けた。

「はぁ、はぁ、はぁ‥‥! ごめん、白雪‥‥」

「いえ、渡し忘れたのは私です」

 そう言って白雪が弁当を差し出す。

「ありが――と?」

受け取ろうとしたら、白雪が弁当を自分の方へ引いた。

「し、白雪?」

「…………なぜ、シュートを撃たないのですか?」

「えっ? あ、ああ‥‥データを取られない為、だよ…………」

「データ?」

「今日の対戦校、多分うちのデータを取りに来たんだ。だから武器であるシュートを見せる訳にはいかない」

「そうですか、じゃあ怪我が痛むわけではないのですね」

「おう、もう痛みはないよ。白雪のおかげでな」

「…………それならいいです」

 今度こそ弁当を受け取る。

「…ここで食べましょうか」

「…………え?」

「席に戻って食べるのは手間でしょう?」

「まあ、そうだけど‥‥」

「では、いただきます」

 コンクリートに座って弁当を食べる白雪を見て、俺もそうすることにした。

「じゃあ、俺も…………いただきます」

隣に座って一緒に食べる。いつもより更に距離が近いのは言うまでもない。

「…………美味い」

「よかった」

冷たくてもちゃんと味わえる弁当。

「……今日はありがとな」

「どうしたんですか、いきなり」

「いや、言いたかっただけさ。礼を」

「それなら私も、あの時はありがとうございました」

「もういいよ。…………明日からも、作ってくれるか?」

「もちろんです」

(即答かい)

「なら、これからもよろしくな」

「…………はい!」

その笑顔は、正に天使のよう。俺は、とんでもない状況にあるのかもしれない。

だけどここは、確かに俺の物語だ。

「さて、食べたら帰るぞ」

「分かりました」

「…………おーい! 新ー? どこ行ったー?」

「やべ、また後でな、白雪」

「はい。……また」

(…………来て、よかったです。貴方には‥‥感謝を‥‥新さん)


「お、どこ行ってたんだよ新」

「悪い、ちょっとな」

「…………誰かに弁当貰ったのか?」

「は?」

「匂うぞ、弁当の香りが」

「…………秘密だ」

「ちぇ」

「ほら、挨拶があるぞ」

「はーい」

俺達は互いのチームに頭を下げた。

「それでは、解散!」

『失礼します!』

 そしてだいたいのチームメイトが帰った後。

「新? 何やってんだー?」

「悪い、今日は帰ってくれ。‥‥俺は用がある」

「……なるほどな、じゃあまたなー」

「…………おう」

俺は体育倉庫に向かって駆けた。

「……「新さん」、終わったようですね」

「ああ、帰ろう」

(ん? 今、新って‥‥)

「………これから私のことは、【六花】と、お呼びください‥‥」

「…………ふっ‥‥分かった。‥‥じゃあ帰ろうか‥‥六花」

そして俺らは帰路につく。途中六花が手を握ってきてドキドキしたのは、二人のだけの秘密。

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