第13話【パーシヴァル】

次の日、土曜日の朝。

「起きてください音花さん、試合に遅れますよ!」

「えっ、ああっ! ‥‥ぐっすり寝てる場合じゃなかった!」

「何度も起こしたのに‥‥」

 ぷくっと顔を膨らませる白雪に謝りながら急いで準備する。

「えっと、スパイクに脛当て、スポーツドリンクにエネルギーゼリー‥‥よし!」

「ご飯できてますよ」

「いただきます! おらぁー!」

 口の中にかっ込み、よく噛んで飲み込む。

「ふふっ、喉に詰まらないように気をつけてくださいね」

「お、おう‥‥」

 とりあえず口にある分を飲み込む。

「そういえば、言い訳決まったのか?」

 そう、何故白雪が試合を観戦するのかの言い訳。

「いえ‥‥ただ興味がある、とだけでいいと思いますよ」

「そう? ‥‥まあいいか」

(‥‥詮索してくる奴もそうそういないだろうし)

晴也? 知らん。というか試合でそんな暇ないだろうし。

「ご馳走様でした!」

俺は食器をキッチンに片付けて、スポーツバッグを握る。

「鍵は置いていくから。じゃあ、行ってきます!」

「行ってらっしゃい、音花さん。‥‥あ、お弁当‥‥」


◇◇◇


「音花さん、お弁当! ‥‥行っちゃった‥‥」

白雪が呼び止めようとした時、もう新は家を出ていた。

「まったく‥‥後で届けますか‥‥」

白雪は皿を洗いながら、ふと自分の状況を考えた。

友達ですらなかった、クラスメイトでもない男子と同じ家でご飯を食べている。

少し前の自分ならまったく考えられなかった状況だった。

(……私は何故あの時、あんなことを言ったのでしょう‥‥)

『お隣ですし、材料さえ用意していただければ』

 新が言った言葉に釣られたというのもあるが、どうして自分から言い出したのかは分からない。自分のことなのに。ただ、つくったご飯を嬉しそうに食べる新を見て『子供みたい』とは思った。

(言ったら怒られそうですね‥‥)

お年頃の男子は子供扱いされるのが嫌いだ。

それに新は、シュン…、という風に落ち込むのである。

「さて‥‥」

作業を済ませた白雪は、自分と新のお弁当、飲み物。怪我した時用の包帯と絆創膏を持って家を出た。

「えっと‥‥陸上競技場の道はこっちでしたね」

 白雪は何のために向かうのだろうか。応援? 弁当? 興味?

それは白雪自身も分からない。

ただ心躍らせ、そこに向かっているのは確かだ。

そして新も、試合の準備を終わらせていた。

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