第12話【図書室】

うちの高校にある図書室には、あまり人が来ない。

「…………」

 昼休みに一人、窓側の席で本を読む。心安らぐ、平和で静かな時間。

これが学校での楽しみでもある。

「‥‥ぁ」

ふと空を見上げると、そこには綺麗な青が全面に広がっていた。

「………綺麗だな」

口からこぼれたその一言に、誰かが反応した。

「ええ、青空は心が安らぎます」

「だな‥‥ん?」

 晴也かと思ったが、あいつは敬語なんて使わないし…………それに声が女子だ。

学校、敬語、女子、関係ある人。‥‥もう一人しかいない。

「…………白雪‥‥?」

後ろに立つその女子生徒に目を向けると、想像通りの人だった。

「……何か用か?」

「いえ、ただロマンチストのようでしたから」

「ロマンチストですよ俺は。ロマンが満ちた自然での冒険、たった一つの……あの子との思い出を…………今も未練がましく思い出すんだ」

 俺が感傷に浸っていると、

「あの子、とは‥‥?」

(あ。‥‥俺は何を話しているんだ‥‥イテェ奴かよ‥‥)

「‥‥もう十年も前のことだ……対馬出身っていうのは話したよな」

「ええ、聞きました」

「………小二の夏休み、近所に金持ちの譲さん‥‥イギリス人とのハーフらしいけど、その子が遊び来たんだ」

「…………?」

白雪は話が見えないという風にキョトンとした顔を見せる。

「それで、一匹のヤマネコを助けたことがキッカケで‥‥仲良くなったんだ」

「それは関心ですね、絶滅危惧種のツシマヤマネコでしょうか?」

「そうだ。‥‥それから二人で遊んだり、俺の友達とみんなで遊んだり‥‥楽しく過ごしてたんだ‥‥」

「‥‥どうなったのですか?」

「夏休みが終わって、その子はイギリスに帰っちまったよ」

「そう、ですか‥‥」

「楽しかった、ずっと続くと思ってた。あの夏休みが、俺の人生で一番楽しかった時間なんだ」

「…………その子の名前は‥‥?」

「…………リーリル」

「リー、リル‥‥?」

 白雪の顔を見て、雰囲気は似てるんだよなと考える。

「……好きなんですか? その‥‥リーリルさんのこと‥‥」

「…流石に十年も会ってないんだ、もうあっちも俺のことを覚えてないだろうさ。それに俺は小三でこっちに引っ越して来たからな‥‥会おうにも会えないよ」

「……」

 白雪の顔が少し曇ったように感じた。そしてムスッとしているようにも見えた。

「……どうした?」

「いえ‥‥未練と言っている割には、かなりキッパリしているんだなと‥‥」

「……ああ、俺は‥‥可能性が無いことにはあまり頑張れない性分なんでな」

「‥‥貴方らしいです」

「…………そういえば、学校ではあまり関わらないって言ってなかったか?」

「はい。しかし今は誰もいないようなので」

「まあ、そりゃそうだけど‥‥」

(いっか。見られなきゃ噂も立たないし)

「‥‥で、何か用があるわけでもないんだよな?」

「ええ。‥‥ただ、明日のサッカーのことなんですが‥‥」

「なにかあったのか?」

「いえ‥‥もし良かったら、その‥‥お弁当、作りましょうか、と‥‥」

「………弁当? 作ってくれるのか?」

「…………」

白雪は髪で目を隠しながらコクコクと頷いた。

「そうか‥‥ありがとな、白雪」

「い、いえ‥‥別に‥‥」

「充分ありがたいことだよ、俺にとっては」

(まあ、学校の姫様に作ってもらうってのは正直気が引けてるんだが‥‥)

 本人がその気になってくれているということで、任せる。

「それじゃあ、俺も頑張らないとな、明日の試合」

「…………頑張って下さい」

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