第10話【天使に起こされる】

「すーっ、すーっ」

 新が寝ている時、午前七時。

その頃、白雪はとっくに起きていた。目覚ましもつけずに。

手早く洗濯物を片付け、今日の朝食は何にしようかと思考を巡らせる。

(……音花さんの健康も考えて‥‥そうですね‥‥よし)

「そろそろ時間ですね」

体内時計で正確に時間を把握している白雪は、時計すら見ずに判断する。

 部屋から出て、隣の部屋の前に。

チャイムを押す。しかし、数分経っても出てこない。

(……まだ寝ているのでしょうか‥‥?)

 ふとドアに手をかけると、鍵が開いてることに気が付いた。

「不用心ですね‥‥まったく」

 寝室を覗くと、静かに眠っている新が見えた。

(先に作っておきましょうか)

 そう考え、白雪はキッチンで料理を始めた。

「あら‥‥?」

 冷凍庫を覗くと、鮭が入っていた。

(音花さん、魚なんて使うんですね‥‥それではこれを焼きましょうか)

 白米。レタスやトマト、紫玉ねぎ等が入ったサラダ。味噌汁。鮭の塩焼き。

 それらの作業を手早く済ませ、もう一度寝室を覗く。

「すーっ、すーっ‥‥うぅん‥‥」

 起きる気配はない。というかいつまでも寝ていそうだ。

(よっぽど疲れていたのですね‥‥)

 白雪は寝室に入り、新の近くに寄る。

「起きてください音花さん、朝ですよ」

 すやすやと眠っている新の肩を揺らすと、

「う、んん‥‥?」

 新が体を起こした。少し寝ぼけていたようだが、

「…………白雪‥‥?」

「はい、おはようございます。音花さん」

「おはよう‥‥ふぁ‥‥ん、‥‥‥‥っ」

 新の血の気が引いた。顔が真っ青だ。

「……白雪…なんで家の中にいるんだ‥‥?」

「呼び鈴を鳴らしても出てこなかったので‥‥鍵は開いていましたよ?」

「あちゃ~‥‥」

 鍵忘れてた、と新は顔を手で覆う。

「鍵を忘れていなかったら私はずっと待つしかなかったのですが」

「あ、そりゃそうだ」

「…………もうご飯の準備は出来ていますよ」

「助かる、この匂いは‥‥鮭か?」

「はい。‥‥音花さん、魚がお好きなんですか?」

「ああ、地元が対馬でな。あそこは魚が一番美味かったから‥‥」

「対馬というと‥‥長崎県のですか」

「よく知ってるな‥‥もう島民は二万人ちょいしかいないけど」

「……漁業が盛んだと聞いております」

「確かに魚はな。新鮮だし、種も多いから」

「そうですか‥‥」

「さて、飯食おうか」

「はい」

 二人同じテーブルで朝食を食べる。

「あ、なあ白雪」

「はい?」

「俺、土曜サッカーの練習試合なんだけどさ‥‥おまえどうする?」

「この部屋で‥‥一人待っていても構いませんが」

「それじゃ暇だろ‥‥‥‥あー、試合見に来るか? どうせそこの陸競(陸上競技場)だし」

「…………」

白雪は少し考えているようだ。

(……流石に駄目だよな‥‥ちょっと調子に乗っちまったかな‥‥)

「そうですね、観戦させて貰います」

「…………え⁉」

「……何ですか、言い出したのは貴方でしょう?」

「いや‥‥了承すると思ってなかったから‥‥」

「興味がありましたから」

(……ん? 何にだろう‥‥あっ、サッカーにか)

 しかし白雪が本当に興味を持っているのは‥‥。

(音花さんのサッカー、少し観てみたいです‥‥)

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