第9話【デレなんてなかった】
「…………白雪姫だ‥‥」
「誰かを待ってんのか?」
「可愛いよなー」
「お前、声掛けてみろよ」
「無理だって!」
そんな会話が広がっている。それで俺たちはというと、
「し――――――――」
らゆき、と声を掛けそうになって、朝の会話を思い出す。
『…………学校では、あまり話しかけないで下さいね』
(…………危ない、さっきまでの隠そうとした俺が無駄になるとこだった…………)
「行こうぜ、晴也」
「おう‥‥」
まったく、浮気しないように見張りを任されているのに…………俺がこの状態じゃダメだな。
「…………?」
俺達が歩き出したとき、白雪も校門から家に向かって進みだした。
(…………まさか、あいつ待ってたんじゃないだろうな‥‥いやいや、それはない)
恋愛の話題が一つも出てこないような相手だぞ、それが俺なんかに。
(…………俺、なんかに‥‥)
ふと、昔誰かに言われた言葉を思い出す。
『あなたは、強い人です! 私は、あなたのことが、―――――!』
(………なんだっけ、最後の……もう忘れちまったな、もう、十年、か‥‥時は早いな)
あの子は今も元気なのだろうか。小二の夏休みに出会った、一人の女の子。
(名前は確か…………)
「…………りー、りあ…………」
「ん、何か言ったか?」
「…………いや、なんでもない」
(口に出てたのか。…………今考えても日本人じゃないよな。見た目も確か、金髪に緑の瞳。めっちゃ白い肌…………)
金持ちのような白いワンピースを着た同年代の女の子。
しかし流暢な日本語を話していた。というか当時の俺よりよっぽど大人びていた。
ただ、誰かに似ているような…………。いや似てねぇわ。
(顔もちげぇだろ、何考えてんだ俺…………)
その時気付いた。
「…………あ」
「どした」
「…………鍵落ちてる」
…………なんだこれ、白い猫のキーホルダー?
「…………多分女子だよな」
「だろうなぁ、けど今から学校に届けるのも面倒だし…………」
同意しておいて何だが、持ち主に同情する。
「明日でいいだろ」
「まあ、それしかないよな…………」
そして
「また明日なー」
「おー」
あの信号を渡り、ちょっと駆け足でマンションにつく。するとエントランスに
「何やってんだ、白雪」
「音花さん。…………鍵を落としてしまって…………」
「あーそれでか…………ん? なぁ、お前の鍵って‥‥」
ポケットを漁り先程拾った『白猫の鍵』を見せる。
「それです! よかったぁ‥‥」
(…………白雪って、猫好きなんだな‥‥)
「…………何ですか、私が猫のキーホルダーを持っているのがそんなに変ですか?」
「いや、そういうわけじゃない‥‥ただ、やっぱいいと思うよ、白猫」
「…………!」
白雪が意外と思っているような、そして、少し女の子らしい笑顔を見せた。
「…………さて、そろそろ入ろう」
「そうですね。‥‥そうしましょう」
俺達は同じエレベーターに乗り、同じ階で降りた。
「…………」
「………?」
俺が家の鍵を開けるのを、白雪が待っている。
「……今日も作ってくれるのか?」
「ええ、言ったでしょう。‥‥それとも、不要でしょうか?」
「…………いや‥‥これからもよろしくお願いします」
「任されました」
(…………あ)
心なしか、昨日より嬉しそうだ。そう思う俺も、少し変わっているのかもしれない。
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