第3話【天使とのキッカケ】
がっ! と嫌な音を立てて、俺は地面に倒れた。
「…………っ……? ………音花さん‥‥音花さん!」
「かはっ………!」
息が苦しい。臓器が痛い。呼吸が出来ない。
(クソ………やっぱりそんな甘くないか‥‥!)
無理をした挙句、地面に思いっ切り激突したんだ。当然といえば当然のことだ。
「呼吸が‥‥すみません、緊急時なので!」
「は……? ―――むぐっ⁉」
唇が、白雪の唇で塞がれた。‥‥授業やテレビでしか見たことが無かった、人工呼吸。
「ふーっ、ふー」
「…………ごはっ‥‥っ‥‥はぁ‥‥はぁ‥‥」
呼吸が戻った。
(息が、息が出来る‥‥けど、それ以上に、今俺、白雪姫とキスしたんだな)
いやいや、あれはあくまで緊急時の、それも治療行為であって。
「大丈夫ですか、いったい、何故こんな真似を…………」
「…………聞くな‥‥自分でも驚てるんだ。‥‥ただ、助けなきゃと思っただけ。誰かを失う悲しみは人並みに知ってるつもりだからな‥‥ただそれを、あんたの家族に味わせたく無かった、それだけだ」
小学二年生で祖父を失った傷は、未だ残り続けている。
「俺はもう行く‥‥あんたは一応病院で診てもらえ」
「いえ、貴方の方こそ病院に―――――――――――――」
「大丈夫だ。あんたのお陰で目覚めた」
「~~~~~~~~~~っ!」
その姫様は顔を真っ赤にして俯いてしまった。
「じゃあな、あんまりぼーっとしてるんじゃないぞ。意外と死ねる原因はそこら中にあるんだからな」
俺は痛みに悲鳴を上げる身体に鞭打ちながら歩き出す。
‥‥無論痩せ我慢だ。痛くないわけがない。
実際は今にも寝たいぐらいに疲労している。ただ、報酬は悪くなかったと言えるだろう。
「…………王子様と姫は逆だったが」
あの赤くなった顔を見ると、学校の奴らが可愛い可愛いばかり言ってるのも分かる気がする。
確かに白雪 は可愛い。本当に。
女子との交流が無い俺でさえ、心の底から微かに思える。
(…………まあ、これっきり関わりなんてないんだろうけど‥‥)
家に着いたら、即着替えて身体に氷を当てる。
「いっつ‥‥」
強がらずに病院行けばよかった‥‥!
(これは確実に明日筋肉痛だな‥‥)
報酬の対価が重すぎんだろ‥‥命懸けって‥‥。
(まあ、男子生徒から羨ましがられるとは思うが‥‥)
白雪姫、うちの高校一の有名人。
美しい顔もさることながら品行方正、文武両道と、完璧超人を体現するスペック。
男子使徒の多くが狙っているであろうその人と、非常時とはいえキスをしたんだ。
(…………知られたらやばい‥‥)
先刻と同レベルの悪寒を感じながら、俺は眠りについた。
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