第2話【嘘みたいなキッカケ】
あの日から一週間経った。俺は未だに彼女ナシである。
一応いうと顔は悪い方ではない。ただボサボサの髪で隠している。
…………それが原因だろう。
「新、…………おい新!」
「! ああ、すまない…………なんだっけ?」
「やっぱり聞いてなかったか。この野郎…………だから彼女出来ねーんだろ」
「うっせ」
この憎めない奴は【高橋晴也(たかはしはるや)】。小学からの腐れ縁である。
昔から気のいいやつで、今では彼女とラブラブ状態。
更にサッカー部レギュラー。…………腹立つ属性多すぎだろこいつ。
まあ、仲はいいのだが。
「新、週末は練習試合だぞ? お前が鍵なんだから」
「悪い、まあ、サポートはするさ」
「頼むぜ? 【パーシヴァル】」
この会話の通り、俺も一応レギュラー。ポジションはMF。
【パーシヴァル】というのは対戦校が勝手につけてきた渾名である。
中二のセンスだな、おい。俺が組んだ作戦に上手く嵌まってくれたからなのだが。
「戦略は任せる、けど‥‥」
「ああ、俺はパスに徹するよ」
「…………りょーかい、提督」
「よろしい、さあ行くぞ。今回は陣形三パターン覚えてもらうからな」
「うげ……勘弁…………」
「「…………はははっ!」」
二人して笑ってしまった。
その日の練習は何事もなく終わった(晴也は頭がパンクするー、とかほざいていたが)。
「じゃーなー」
「おー」
帰り道、友人たちと別れて己の帰路につく。
「…………やっぱ、こういうのが好きなんだな、俺」
それは、この生活に満足しているという心の現れ。自分の口からこれが聞けて満足だ。
無理に出会いを求めるのではなく、流れに身を任せて生きるのが一番楽な生き方だ。
そして、稀に反抗するくらいが丁度いいのである。
そして横断歩道が目に入る。
しかし俺の目はただ一人に向けられていた。
「…………白雪…………」
信号待ちで立っている女子生徒。同じ方向だったのか。
ただ、明らかに違うオーラを纏っている。これが伝説の顔面格差、か‥‥?
ピーポ、パッポ。そのような音で青信号になる。
白雪が歩き出すのが見える。
俺も無意識に止まっていた動きを取り戻し、歩き出す。
その時、俺の皮膚を悪寒が貫いた。
(…………ん? …………なんだ、この寒気…………)
何かヤバい。かなり不味いことが起きる。
(サッカーで鍛えた勘と観察眼が、こんなとこで役立つとはな‥‥!)
俺は自身の勘を信じ、周囲を見渡す。
すると一台、おかしい車を見つけた。白いミニワゴン。明らかに不安定な動きだ。
古い型式なのか、外から車の中が見える。
「…………嘘だろ‥‥」
俺は考えるよりも早く、その一歩を踏み出していた。
ワゴンの運転手は気を失っている。その原因が発作にせよ何にせよ、今起きようとしているのは人が死ぬ事故だ。
そしてその進路上にいるのが‥‥
「――――――逃げろ白雪!」
「…………?」
走りながら、精一杯の声を出した。その声で白雪がワゴンに気付く。
「…………っ」
白雪の動きが固まった。クソ、こんな時に…………。
人間の身体は危機が迫った時、咄嗟には動けない。硬直する確率がかなり高い。
「――――――――ぉおおおおおおおおおおおおおお―――――――――――――ッ!」
全力で、その一歩を踏み出した。自分史上最速のスタート。
ここまでの加速感を味わったのは初めてだ。俺は、火事場の馬鹿力ってやつを引き出したらしい。ワゴンと白雪が衝突するまでおよそ三秒。それまでに、この七メートルを走る。
(…………それが出来なければ、最悪二人とも死ぬ!)
一歩、そして最後の一歩。
「すまん、白雪!」
俺は跳躍し、白雪を押し倒した。自分が下になるように調整し、身体が地面とこすれる。
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