第4話
「——ラシアス様。言われてた通り、人間を連れてきましたよ」
「……これが?」
「はい。……あれっ、想像と違ってました?」
「……まぁ、ハッキリ言って、こんな何もできなそうな人間もいるんだなって思って」
「おい。初対面で失礼すぎるだろ」
アイエルのあとをついていくと、大きめの学校のような建物に来た。
建物に入り、奥へと進んでいくと、「ラシアス」と書かれた看板が目に入った。
その部屋に入ると、初対面ながら失礼すぎる言葉を受けたのだった。
「……それで、名前は?」
どこからともなく声が聞こえる。姿は見えない。
「……俺は澁谷悠汰。教えてくれ。俺はどうしてこんな場所にいるんだ?あんたは何者なんだ?俺の隣にいるアイエルとかいう子は何者なんだ?それに——」
「……言葉を慎め人間。そんなに質問されても答えられないぞ」
ゆっくりと重々しい声が部屋に響く。
「…………とにかく。まずは、あんたの事を教えてくれ」
「……私は、ラシアス。この都市の王だ」
「へぇ、王様ねぇ。最初から気になってたんだけど、あんたはどこにいるんだ?姿を見せてくれよ」
「……人間よ。敬語というものを知らないのか?」
「敬語?どうしてそんなこと——ッ!?」
その時、体中に電撃のようなものが走り、その場に倒れこむ。
一体どうなってんだ。敬語を使わなかったからと言ってこんなことあり得ない。
「悠汰さん!?ちょっと、ラシアス様、こんなことしたら死にますよ!?」
電撃のようなもので体がしびれている。アイエルが俺の名を叫ぶ。
「……大丈夫だ。これくらいで死ぬことはない。さあ、人間よ。言葉を慎め」
「痛……ッ。……分かりました」
「……そう。それでいいのだ。他に、質問は?」
「……どうして、姿を見せないんですか?見せてもいいと思うんですけど」
「…………」
俺がそう言うと、数秒沈黙が訪れる。
俺、何か変なことを言ったかな?と思い、隣にいるアイエルに視線を送ると。
「……っ」
なぜか恥ずかしそうに顔をプイッと背けた。
「……そう、だな」
その後、ラシアスとかいう王が重々しい言葉を続けた。
「……私の存在は、知られてはならない。もし知られたら……それは、この国の死を意味する」
「……はぁ。そ、そうですか」
分かったような分からないような、曖昧な返事をしてしまった。
「じ、じゃあ、次の質問」
気を取り直して、次の質問に移る。
「俺は、どうしてこの世界に来たんですか?」
「……なに?アイエルから聞いてないのか?」
「あ、あの!い、一応、言われてた通り説明はしたんですけど……な、なんというか、納得いってなくて……っ」
そう言われ、アイエルはわたわたとし始める。
「……なるほど。最初の言葉を撤回しよう。お前は、理解ができない人間、としておこう」
「ふっざけんなよ!」
そんなことを言われ、俺はついそう口にしてしまった。
「……おい」
「!?」
次の瞬間、またしても電撃のようなものが体中に流れる。
……マジかよ。こいつの前では敬語はちゃんとしないとダメそうだな。
言葉を慎め、か。……発する前に、一度考えてから発した方がよさそうだ。
「……こほん。質問に答えよう。アイエルから聞いていたとは思うが、お前の役目はこの世界にいる魔女を倒すことだ」
今日の朝に聞いたことと同じだ。
「はい、それは聞きました。どうやって俺はこの世界に来たんですか?」
「……それは、そうだな」
うーん、と唸るような声が聞こえる。
「……たまたま選ばれた、としておこうか」
たまたまってなんだよ。それなりの理由があるのかと思ったら、全然身の蓋もないような理由だったし!
「……それはそうと、人間。隣にいるアイエルだが」
と、次はアイエルの話になった。
「……彼女は、この学校の優等生なんだ。だから、そんな彼女がお世話してくれるなんて幸せだと思え」
「……は、はぁ。というか、ここ学校だったんですね」
「……ああ、そうだ」
確かに、建物の外観が学校に似ていたし。
「具体的に、どんなお世話をしてくれるんですか?」
「……まあ、家事全般、その他、お前が言ったことには従うとは思う。けれど、機械じゃないんだ。全て了承するわけではないことを覚えておけ」
「なるほど。じゃあ、やっぱりメイドっていう立ち位置なんだ」
彼女は、俺のお世話がかり。通称、専属メイドってことか。
「……それでは、今日はこの辺で終わりだ。また詳しい話を聞きたくなったら後日くればいい」
「分かりました」
どうやらお時間が来たらしい。学校でよく耳にするチャイムが、この建物内に響く。
「では行きましょう、悠汰さん」
アイエルに言われ、ラシアスの部屋を出て行く。
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