廃村

 ルータの命により、魔物の群れの討伐の為に僕がアンシアと共にやってきた場所。

 そこは一つの廃村だった。


「えっと、ね。ここは十年くらい前には人の動きがあった村だったみたいなんだけど、当時に魔物からの襲撃を受けて滅ぼされちゃったみたい。それから十年間、奪還作戦等は行われず、そのまま村は魔物たちの根城になっていたみたいだけど……ちょっと、子供たちが紛れ込んじゃったみたいでね」


 廃村へとやってきた僕、その横でアンシアがこの村について、任務の内容にの説明をしてくれていた。


「小さい子向けの教育機関で戦闘訓練を受けていた子たちが、冒険と称して廃村を回っていたらしいんだ。本当は魔物なんていない、本当に過疎化が原因で廃れた村を回っていたらしいんだけど……間違えてこの村に来ちゃったみたいなんだよね。その対処も含め、この村についてそろそろ何とかしようっていう感じみたい」


「……それじゃあ」


「ただ、ね。まだ、その子供たちには生きている気配がある……私たちの訓練内容はこの村の魔物たちを全滅させると共に、まだ生きている子供を助けることだよっ!とはいえ、自分たちの命が優先。助けられそうになかったら、子供たちを助けなくともよい、ってことになっているね」


 なるほど、子供たちを助けるのも僕たちの訓練内容に含まれているのか。

 良かった、子供たちの遺体回収とかではなくて。


「じゃあ、入っていこうか」


「はい」


 魔物たちが待ち構えているであろう廃村。

 そこへと僕はアンシアと共に入っていく。


「……」


 十年前からその活動を停止させた廃村であるが、今でもここには当時の人々たちの生活の跡が残されている。

 半壊した家屋から覗いている食事の準備をしていたであろうキッチン。

 水桶の繋がれた縄が下がったままになっている井戸。

 そして、魔物たちに立ち向かおうとしたものたちが残した武具の数々。

 それらの跡が如実にこの村にも人々の生活があったことをダイレクトに伝えてくる……跡が、こうして、見て取れるというのも貴重なものだね。

 本当に。


「ぎゃぎゃっ!」


 そんなことを考えながら、僕がアンシアの後ろに続いて廃村を歩いていると、いつの間にか自分の背後に現れていた魔物に一切の容赦なく頭を食いちぎられる。

 首から上がなくなった僕はそのまま片膝を地面へとつく。


「ロワくんっ!?」

 

 そんな僕を見て、自分の前を進んでいたアンシアが驚愕の声を上げるが。


「僕は大丈夫」


 それに対して、既に頭部の再生が終わってしまっている僕は立ち上がりながら、アンシアの方に声をかける。


「それよりも周り」


「ぐるるるるる」


「ぎゃぎゃぎゃっ!」


「ぐぅぅぅぅぅぅ」


 いつの間に迫ってきていたのか。

 自分たちの周りは大量の魔物によって囲まれてしまっていた。

 僕たちを囲む魔物は狂暴な顔つきをもち、体から禍々しい肋骨が突き出ているような巨大な狼のような魔物であった。


「ふぅー」


 そんな魔物たちがじりじりとこちらへと距離を詰めてくるのに対し、すぐさま意識を切り替えたアンシアはその腰にぶら下げていた剣を引き抜いて構える。


「がぁぁぁぁぁあああああああああっ!」


 そのタイミングで、一斉に魔物たちが僕たちへと飛び掛かってくる。


「……無理」


 僕が自分の元へと殺到してきた魔物たちを前にして、何も出来ずに押し倒されてそのままがぶがぶされ始めた中で、自分の隣にいたアンシアは機敏に動く。


「はぁっ!」


 その手にある剣を素早く振るい、確実に自分へと迫ってきていた魔物を斬り裂いていく。

 その動きに無駄はなく、最小限の動きで魔物の首を斬り落としていた。

 その強さは圧巻だった。


「今、助けるわっ!」

 

 そして、すぐさま地面に転がった状態でがぶがぶされていた僕を救い出してくれる。


「ありがとう。助かった」


 狼の魔物によって好き放題がぶがぶされて、ほとんど体の原型がなくなっていた中でも、何事もなかったかのように再生して再び立ちあがった僕はアンシアへとお礼の言葉を告げる。


「……なんで、服も再生しているの?」


 そんな僕を前に、がぶがぶされて大変なことになっていた服まで何事もなかったように回復している僕を前に、自分を助けてくれたアンシアは困惑の声を上げる。


「必要でしょ?」


「まぁ……そうだけど」


 常に全裸で行動とか、危険にも程がある。

 服も僕の体と共に、回復するようにしてある。


「そんなことより、早く廃村の探検を進めよう」


 こんな話を僕は早々に切り上げ、歩き始める。

 そして、その後をアンシアもついてくるのだった。

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