自己紹介

「よし。それでは君たち三人に新しくこの小隊へと入ることになるメンバーを紹介しよう。ほら、自己紹介をするんだ」


「ロワです。年齢は十四歳です。よろしくお願いします」


 ルータから自己紹介をするように迫られる僕はぺこりとその場で一礼して簡潔な自分の自己紹介を告げる。


「ということで、ロワだ。こいつは長らく私の家に居候していた奴だな。お前らに足りない家事能力は非常に高いぞ。ただ、別に戦闘面に優れているわけでもない。戦闘の経験などほとんどないしな」


「で、でも……死なない?」


「あぁ、そうだな。それがこいつの強みだ。肉壁としてならうまく機能するだろうから、使ってやれ」


「い、いや!?たとえ、死ななかったとしても、そんなこと出来ないわよ。痛みとかはあるでしょうし……い、一回、殺しちゃった私が言えることじゃないけど」


「いや、僕は痛みなんてほとんど感じないよ」


 自分が痛みで苦しむんじゃないか。

 それを心配して声をあげてくれる金髪の少女に対して、僕は心配する必要なんてないと声をかける。


「そ、そうなの?」


「痛みとは所詮、自分の体に異常が起こっていることを指し示してくれる信号でしかない。痛みがなければ、心臓病などに罹っても気づけないし、自分が致命傷を負っていることもまた然り。ただ、僕は死ぬことがない。故に、痛覚など必要ない」


「だから……痛みは感じないと?」


「うん。僕のその感覚はもう死んでいるよ」


 最初の頃はあったけど、段々と僕の体の方が順応していった──の途中から。


「そういうわけだ……まぁ、だいぶ特異な奴だが、仲良くしてやってほしい……というわけで、今度は君たちの自己紹介を頼む」


「……うーん、よし。はいはぁーい。やっぱりこういうのは明るく行くべきだよねっ!」


 ルータの言葉を受け、複雑そうな表情を浮かべていた金髪の少女はそれを切り替え、明るく声を上げる。


「私の名前はアンシア・ラヴニーナ!私の年齢は十六歳で、ロワくんより二歳年上だよっ。よろしくねっ!」


「俺の名前はガク・ロウデシア。年齢としてはもう二十歳だ。君よりも六歳年上だが、遅咲きで対魔師になった身でな。経験値はまるで多くない。同じ新人として仲良くしてくれ」


 金髪の少女はアンシア。

 筋肉質な大男はガク。


「……」


「……?」


 そして、全身をローブで隠し、顔も仮面で隠し、一切の素性が見えない性別不肖の人物は何も告げなかった。


「この子はノーネームだよ!というのもね、この子はほんと、ずっと何もしゃべらなくて、私たちだって名前もわからないから勝手にそう呼んでいるっ。でも、仕草とかで感情を表現してくれる、良い子だから仲良くしてあげて」


「……っ」


「よろしく」


 黒い布に覆われている両腕をローブから持ち上げて見せる性別不肖の人物、ノーネームがぐっと両腕で拳を握ったのに反応して僕も頭を下げる。


「これで簡単な自己紹介は終わりだな。祝福とか、戦闘面に関してはこれから動いていく中で学んでいくと良い。どうせ、ロワはまだ戦えんだろう。ただ、見ているんだな」


「わかった」


 僕はルータの言葉に頷く。


「さて、ということで、早速だが君たちにはいつものように実地訓練に行ってもらう。まだ、君たちは前線に出ていけるような実力を持っていない。まだまだ勉強段階だ。というわけで、今回も軽い戦闘に出てもらうことになる。やることとしてはいつも通り魔物の討伐だな」

 

 魔物。

 それは魔族の王たる魔王がその能力。

 人類の持つ祝福とは対になる魔族の持つ力、呪骸によって生み出された生命体のことを指す。

 魔族は大量に生まれている魔物を駆使して、戦闘行動に出ることが多く、また、放し飼いされて勝手に各々で暴れて人類に被害を出している魔物というのも多い。

 基本的にまだ駆け出しと呼ばれるような人員は魔族よりは弱い、魔物だけの群れを相手にすることがほとんどである。


「とはいえ、四人で行くのは流石に過剰戦力だ。ここは二つに分ける。まずはロワとアンシアのペア。そして、ガクとノーネームのペアだ。アンシアの方はうまく、ロワのことを支えてやってくれ」


「だって!ロワくん、一緒に頑張ろうねっ!」


「うん、よろしくお願いします」


 本当に戦闘能力がカスみたいなものしかなく、戦闘面ではまるでお役に立てそうにない僕がペアでも明るく声をかけてくれるアンシアに対し、こちらも丁寧に言葉を返すのだった。

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