第6話

木を切った影響か、おそらく土砂崩れによってき止められた川はまるで小さな湖のようになっていた。

そこを囲むように白いアネモネの花畑が広がっている。

俺は我慢がまんできず、いて出てきた水をすくって飲む。

さいわいにも水は透き通っていた。

そんな俺の後をゆっくりと彼女が歩いてくる。俺は彼女の方を向き直した。風が吹く。純白じゅんぱくの花びらが舞い上がる。俺はその一ひらをつかむと彼女に突き出して言った。

「君を愛している。好きだ。」

出会った時に感じたその熱情を。

彼女は困惑していた。

いや,そう見えただけかもしれない。

だって、

「でも、私は……」

「『AI』だろう?」

何度か感じた違和感の正体も、彼女の無機質な返しも、変化のない表情も、全て『AI』だから。

「そんなことは関係ない。しゅが違うとか、自分の文明を壊したとか、そんなのどうでもいい。俺は君が好きだ。」

それに彼女はきっと誰も殺していない。

これは願望かもしれないし、フィルターがかかっているのかもしれないけど、彼女の手はあまりにも綺麗すぎる。赤色がついていたように思えないくらいに。

彼女がこちらへ進んでくる。もう少しでふれあいそうな距離でまた風が吹いた。

もう一度花びらが舞う。けど今度はお互いが隠れるほどに。

その隙間から見えた彼女の口元は微笑ほほえんでいる気がした。


これはAIに自我が芽生めばえることで崩壊した日本で、1人の男と1人のAIが、あいを知った物語だ。

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あいを知ったもの達よ、 甘栗むかせていただきました。 @kuri-manju3131

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