撤退
レオナルドは一度距離を取り、迷宮の影の中に身を潜めた。冷たい汗が頬を伝い、鼓動が早鐘を打っていたが、心の奥には奇妙な高揚感が湧き上がっている。かつてならただ恐怖に支配され、逃げることしか頭になかったはずだ。それが今、デスナイトという圧倒的な敵に立ち向かい、少しとはいえ手傷を負わせられた。この事実が彼の中に新たな力を宿していた。
「……まだ、いけるかもしれない」
契約で得た力もさることながら、自分の「意志」が強さに繋がっていることをレオナルドは少しずつ実感し始めていた。普通のアンデッドがただ闇に従う存在にすぎないのに対し、自分は何かを目指し、何かを成し遂げようとする意志がある。その違いが彼にこの圧倒的な強敵への抵抗を許しているのだ。
その時、遠くから足音が響き、冷たい風が空気をかき乱した。再びデスナイトが自分の気配を察知したらしい。重厚な足取りが近づくたび、周囲の闇がさらに濃く染まっていく。
「今は引く…だが、このままでは終わらせない」
静かに剣を握り直し、レオナルドはデスナイトの足音が遠ざかるのを待ちながら、内心で次の戦略を練った。このまま数をこなしてレベルを上げ、少しでも力を蓄えなければならない。低級のモンスターから得られる経験値は微々たるものだが、自分にはそれを補う「時間」がある。無尽蔵とも言える時間の中で、自らを磨き続けることができるのだ。
やがてデスナイトの姿が消え、静寂が戻った。レオナルドは一息つき、再び迷宮の奥へと足を踏み入れる決意を新たにした。人間に戻るためには、強大な存在と再び対峙し、乗り越える必要がある。そのための第一歩として、まずはこの迷宮で己を鍛え上げるしかない。
「待っていろよ、デスナイト…次に会う時は、今度こそ」
静かに誓いを立てながら、レオナルドは闇の中に溶け込むように歩みを進めていった。
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