ダメなら引き返せばええんや



レオナルドは剣を構えたまま、デスナイトの冷たい眼差しを受けていた。相手は動きも剣の重さも、そして戦闘経験も、彼を圧倒していた。先ほど与えた微かな一撃も、デスナイトにとっては傷一つないも同然だ。胸の奥から湧き上がる闘志を感じながらも、現実を冷静に見つめる自分がいる。勝ち目はない──それが、はっきりと理解できた。


「ここで無理をしても無駄死にするだけだ…」


レオナルドは思わず奥歯を噛みしめた。闘いの中で成長し、少しずつ人間の姿に戻りたいという願いはある。しかし、無謀に挑んで消滅してしまえば、帰るという希望も全て泡と消える。再び立ち上がるためには、まだ足りないのだ。歯がゆさを感じながらも、彼は一歩、二歩と後退し始めた。


デスナイトは彼の動きをじっと見据え、追って来ようとはしなかった。それがまるで「挑むならいつでも相手になってやる」と無言で告げているかのように思えた。その圧倒的な存在感を背中に感じながら、レオナルドは慎重に距離を取り、深く息を吐いた。


「強くならなければ…もっと、進化しなければ、あいつには到底敵わない」


悔しさとともに、彼は迷宮の奥から少し引き返し、無謀ではない範囲での戦いを続けることにした。途中で現れるスケルトンやゾンビ、また時折出現する小型のモンスターを相手に、慎重に戦いを重ねながら、少しずつ自らの力を高めていく。彼らのような低級アンデッドであれば、戦闘の中で得た技術や経験が十分に通用し、倒すことで自らの存在をさらに磨くことができた。


「デスナイトに届くには、まだまだ道のりは長い…でも、俺は必ず戻る」


目を閉じて、かつての生きていた頃の記憶、帰るべき場所を思い浮かべる。その思いが、彼の歩みを決して止めない強い原動力となっていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る