レベルアップ



「帰るためには……このままじゃ、駄目だ」


自分の手を見下ろす。腐った肌、剥がれ落ちた肉。死者の冷たさが纏わりついているこの体で、再び人間の世界に戻るなど到底叶うはずもない。ならばどうすればいい?この呪われた姿のまま、朽ち果てるしかないのか?


だが、心の奥底で小さな光が囁く。この迷宮で倒すべき敵を打ち倒し、その力を奪い取り続ければ──少しずつ、人間としての姿を取り戻せるかもしれない。


「俺が、この身を捨てて進化するしかない……!」


決意を新たにすると、体の芯にじわりと何かが燃え上がる感覚がした。これが、戦士としての本能なのかもしれない。肉体の限界を超えて、成長し続けることを求める意志。その意志が、今の俺を支えている。


目の前には、うごめくアンデッドの群れがいる。かつての俺と同じように迷宮に囚われ、意識を失った同胞たちだ。戦うたびに、彼らの力を俺が吸収し、自分自身を高めていくしかない──それが俺に残された唯一の道。



目の前に迫る亡者が、虚ろな目でこちらを見据えている。彼らもまた、この迷宮に取り込まれた犠牲者だろう。しかし、今の俺には情けをかける余裕などない。目の前の敵を打ち倒し、その力を奪い取ることで、自分を進化させる。それ以外に道はない。


剣を握り直し、一気に距離を詰める。腐りかけた体とはいえ、筋肉が覚えている剣技は健在だ。目の前のアンデッドが刃を振りかざすが、冷静にその動きを読み、体を沈めてかわす。そして、すかさず自分の剣を振り下ろし、相手の首を一刀のもとに斬り落とした。


──ゴウ、と微かな輝きが体を駆け抜ける。


倒したアンデッドから、小さな力の塊が俺に吸収される。以前は気づかなかったが、この迷宮に囚われた存在には、それぞれの力が残留している。奴らを倒すごとに、その力が俺に蓄積されていく。微かな光が体の中に宿るたび、体に何か変化が起こっているような感覚があった。


「……少し、動きやすくなったか?」


腐り果てた体が僅かに柔らかさを取り戻し、動きにくかった関節が少しずつ滑らかに動く。アンデッドの体から、ほんの僅かに人間の感覚が戻り始めているのを感じた。


次の敵が現れる。すぐに気配を感じ取り、振り向きざまに剣を構える。数体のアンデッドが同時にこちらへと突っ込んできたが、俺はもう怯まない。ひとりずつ確実に斬り倒し、彼らの力を奪い取っていく。戦うたびに、体の感覚が少しずつ人間に近づいていく──まるで自分の存在が「進化」していくかのように。



戦いが終わり、俺は静かに息を整える。僅かずつではあるが、体が変わっていくのを実感できる。決してすぐに戻れるわけではない。人間の姿に戻るためには、さらなる戦いと犠牲が必要だろう。


「どれだけ時間がかかっても……俺は、必ず戻る」


決意を新たにし、再び足を踏み出す。どれだけの血が流れ、どれだけの犠牲を払っても、俺には守るべきものがある。そして、そのためには人間の姿を取り戻し、再び彼女のもとへ帰らなければならない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る