#5  大木 秀三郎

 んぇあ? っへへへ。よぅどこ行くんだ若造。ぁー、今何時だぁ?


 なぁ、俺のうちには目覚まし時計ってのがないんだ。なんでか分かるかぁ?

 それはぁ、俺が遅刻して出社しても誰も気にしないからだぁ! んへへへへ。


 羨ましいかよォ来里原の若造。毎日毎日、働かなくても生きていけるこういうオレみたいな存在がさァ。


 けどなぁ。オレはクズなんだよぉ。

 ただ生きてるだけだ。毎日毎日、ただ生きてるだけだ。


 オレにもっと能力があればなぁ。

 んぇ?

 はは、俺にそんな才があるわけないだろが。本家の、峰賀澄の人間に目つけられてんだよ。俺みたいな一応は峰賀澄の親戚筋が、そんじょそこらの日給月給で働かれちゃ、悪い噂が立つんだってさ。


 監視かいくぐればいいって?

 お前よぉ、お前峰賀澄が分かっちゃいねぇよ。峰賀澄の、なんかさぁ、古くからある神通力っての知らねぇのかよ。鬼を殺した一族の、眼力ってのがあってさぁ。

 常に俺のこと見てんだとさァ。恐いもんだねぇ。俺の生活だって、常に監視されてンだよ。


 だから毎日なぁ? 峰賀澄の末端企業の窓際で一日暇つぶして、給料も生活費も全部管理されてんだ。

 今のこのご時世、世の中でさぁ。こんな風に他人に生きる権利を奪われてる、飼い殺しの人間もいるんだなぁオイ。

 羨ましいなら代わるかい? 若者よ。


 んぁ、なんだ。

 峰賀澄のゴシップ聞きに来たんじゃないのかい。


 んぇ? あー琥太郎についてか。

 おう。昨晩だか今朝だか、死んだんだってなぁ。こえぇこえぇ。んぁ? あんま驚いてないなって? 驚いてんよ。驚いてるけどなぁ、あんな冷徹人間、いつか仕事で恨み買って刺されてもまあ不思議じゃないからなァ。


 今の所はひとまず病死ってなってんだろ。実際は殺されたって聞いたぞ。

 ま、警察からの正式な発表が出るまではそうしとくんだろうさ。まあ、世間体を全力で気にする峰賀澄っぽいよなあ。はは。


 ん?


 宴の夜に何か見たか? いいや、見てねぇよォ。俺はずっと宴会の広間に居た。

 いやー今回の親族代表のあんたの挨拶。ありゃ良かった。うんうん。

 峰賀澄家と来里原家の今後の事業についてだとか、これから先の未来だとか、今後の夢だとかな。

 まあまあ。あんたのご立派な挨拶聞いて、感動に眼を潤ませて酒飲んでたよ、俺はずっと。

 はは、ウソか。まあウソだな。若い奴はいいもんだ、命知らずで峰賀澄の怖さなんか分かっちゃいねぇ。そう思いながらあんたの親族の若手代表の挨拶聞いてたよ。


 ん?

 何か音が聞こえるか?

 いいやなんにも。あんたちょっと疲れてんじゃないか? 大方あの親族代表の挨拶の準備で寝てないんだろ。最近の若いのはそういうのちょっと考えすぎてるからな。


 ああ。

 そうだ。あんたがもしこの屋敷のことで何か知りたいンなら、あいつなら知ってんじゃねぇか?

 ハハッ。あいつ、なんて言ったことバレたらまた黒い手紙が届くかもしんねぇな。こえぇこえぇ。


 え?


 だからあいつだよ。あのお方。きっとあんたが知りたい事も、なーんでもご存じなんだよ。


 峰賀澄の次女のさぁ――



<続>

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