#5 一向にかまわん話



「ときに悠太よ」

「うん?」

 俺は漫画から目を離す。


「あたしとえっちするのは好きか?」

何故なにゆえ

「答えるのじゃ★」(ふにふに♪)

ベッドでのしかかってきた。猫か。重い。そして柔らかい。


「……その、ちょっとだけ不安なのじゃよ。内心引かれてるんじゃないかと思って……」

「――ふつーに好きだが?」

「え、」

 素直に伝えたら急に固まった。

「あ、そ……」

 ふーん、と呟きながらもじもじし始める。露骨に赤くなってるし。


「なに、シたいの?」

「ッ、はぁ!? ん、んなわけないし。悠太の部屋の匂い良い嗅いでたらムラムラしたとかそんなんじゃないし」

 想像以上にポリスメン案件だった。なるほど、えっちなことするんですね?

 誰か俺の部屋で変なハーブとか栽培してないよな? なんかこう、ちはるを焚きつける成分込みな。


「いいよ。ほい」

 俺ははさっと漫画を置くと、彼女に向かって両手を広げた。

「なんそれ?」

「いや、だからその」

「……ぇ、ぇえ? な、何考えてんの悠太、あたしがそんなんで喜ぶとでも……思ってるわ

けじゃない……よ……ねぇ……あはぁ……ん、悠太ぁ、すきぃ………」

 即堕ちしてすりすり頬を寄せてくる。

 ちょろい。ちょろすぎる。

 だがそれがいい。

 俺か? 俺は一向にかまわん。


「率直に気になるんだけど」

「ん?」尋ねれば、見るからに上機嫌で見上げる。好きなんですか?


「俺たち、付き合ったらどうなるんかな?」

「そりゃもう……」言葉を切って、ちはるは自信満々に語り出す。


「――らぶらぶの甘〜い高校生活過ごして、同じ大学に行って。卒業したら同じ街で社会人になって、お金が貯まったら結婚するんだ。そして家庭を築くの。子どもは二人。郊外に庭付きの一戸建てを買って、子育てが終わったらお互いに好きなことをしようよ。海の見える街でお店やるのもいいよね。ねぇ、悠太は」

「ライフプランのシミュレーションか!!!」

 あれじゃん、新入社員が研修とかでやるやつじゃん。と高校生が語ってみる。

 あと子どもの数とかくっつき合いながら話すのはいかがなものでしょうか。思春期男子の妄想を掻き立ててはいけない(戒め)。


「――んん? あれえ……?」

 何かに気付いたちはるは悪戯っぽく口の端を上げる。

「――まだ赤ちゃん作るつもりはありませんよぉ……??」

 とか言いながらさすさすするのはやめなさい。気付かないフリするのも優しさだと先生は思います。


「――付き合ったら、いつかこのまま……しちゃってもいい関係に、きっとなるんじゃないかな」

 ちはるの答えは、すごいリアルで、生々しい。

 だけど、

「――俺も、そうなればいいなって」

「……んふふ。もぉ、いいこと言ってんのに台無し★」

 すまんな、愚息は別人格なんだ(言い訳)



 次の日、教室で顔を合わせると、

 ちはるは「はい」と紙袋を差し出す。


「アチアチ本命チョコぞ!よ~く味わいたまへ★」

「さすがちはるネキですわぁ」


 昼休み、二人で弁当を食べた後、デザートに一つ食べてみた。


「(しみじみ……)……っ、!? ん、ぇほっ、げほっ!??」

「おっ、アチアチ引いたね! いっこだけハバネロ入れた」


 いやそういう意味だったんかい!

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