#6 描いた未来とウラオモテ -1- しあわせ
「それじゃ、行ってくるよ」
「うん、行ってらっしゃい」
玄関で悠太に手を振る。
ぱたん、と玄関の扉がしまって足音が遠ざかるのを聞き届けたあと、
「――さてと、掃除でもするかね」
ものぐさな自分に言い聞かきるように、あたしは両手を握って「ヨシ」と気合を入れた。
悠太と同じ大学に進むことはできなかった。
でも考えようだと思った。
短大なら二年で卒業できる。働き始めれば経済力もつくし。
それに――結婚だって、早められるかもしれない。
事実、そうなって。
第一志望の四大に合格した悠太を、ちょっとだけ羨ましく思ったこともあるけれど。
お互いに卒業して、こうして会社へ向かう悠太を支える生活も、居心地がいい日々に思えた。
まぁ、短大を出て就職した会社をあっさりドロップアウトしちゃったところは……正直悠太に甘えちゃってるんだけどね。
(プルルっ♪)
「んん?」
掃除機に手をかけたそばから、テーブルに置いたスマホが鳴る。
表示されたのは『千遊』の文字と制服ディステニーの写真(アドレス帳に登録したやつ)。
「はい、名取でーす」
『人妻アピールやめやめー』
てへへ、とわざとらしく照れながら、あたしはソファに座った。
『いま大丈夫だったー?』と千遊ちゃん。
「うん、へーきへーき。そちらもお休みなの?」
『あはは~、働きすぎちゃって代休取れってさー』
「そ、そうなの!? ダメだよ千遊ちゃん、あたしに電話なんてしないで休もうよ」
慌てるあたしに、千遊ちゃんは電話越しにくすくすと笑う。
『だいじょぶ! それに、ちぃちゃんがウチの癒しだから⭐︎』
「――あはっ、なにそれぇ……泣いちゃうよ……」
『え、ちょ!? まさかのガチ泣きやめて!?』
それからあたしと千遊ちゃんは、一年分の近況をお互いに報告し合った。
LIENで聞いたものから知らないものまで。
『名取くんとは仲良くやってる?』
「うん、昨日もやった♪」
『っ、ぁ、ぁあはは、マジ仲いいね……」
行間に『ちがう、そうじゃない』という雰囲気を漂わせて千遊ちゃんが苦笑する。
けれど、次の瞬間――彼女は『はっ、』と息を吸い込んで、
『――もしかして、妊活……!?』
「…………うん♡」
頬の熱を抑えながら頷くと、
千遊ちゃんは『ひゃ……♡』と声を漏らす。
『ど、どのくらいしてるの……!?』
「えっ!? えーと、基礎体温測って……、、」
どことなく前のめりな圧を感じたあたしは勢いに押されるまま赤裸々告白。
『そ、そっかぁ。。――参考にしよ……』
ふむふむと千遊ちゃん。
その雰囲気に、ぴんと。
あたしは何かを察するとともに、
そろりと、言葉を忍ばせる。
「……もしかしてなんだけど。千遊ちゃん、カレシと長いよね……?」
『ぁ、……へへ。じつはぁ、結婚することになりましたぁ……⭐︎」
「――うおぉぉおおおお!!!!」
『うっっさ!!! 音割れてるから!!!!』
はっ、しまった。ヲタク時代の血が蘇って、思わず野太い声が……! タカヤ⚪︎リコか、あたしは。
『――というわけなので。年内に披露宴する予定なんだけど、ちぃちゃんにも来てほしいなって思ってるから……詳細決まったら連絡するね』
「うん、楽しみにしてる!!」
今度会おうね、という約束を交わして、あたしはスマホを置く。
「……アルコールはやめよ」
お腹をさすりながら、そんなことを考えた。
披露宴の頃には、もう大きくなってたりして。ふふ、楽しみだなっ。
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