第3話 勘のいい君。

 俺は次の日と待たず、君とまた海で会うことになる。

 夜、なんとなく眠れず、自宅から歩いて海へ向かった。夜のビーチはとても暗く、スマホのライトなしでは歩けなかった。足元を照らしながら歩いていると、夕方、ふたりで並んで立っていたところに、君はいた。スマホをいじることもなくただ、どこか遠くを見ていた。君に気がつかなかった俺は驚いた。

 「え、なにしてるの」

 時間を確認するともう0時になるところだった。

 「なんとなく、先輩が来る気がしたので」にひ、と笑い、言った。

 「いや、めっちゃたまたま来たんだよ。普段こないのに、こんな時間に…」

 「勘ですよ勘。先輩も、ほら座って」君は自分の隣をぺち、ぺちと叩く。

 言われるまま腰を下ろし、どうしたものかと考えあぐねていると、君は言う。

 「先輩、ひとり暮らしなんですか?」

 「そうだけど、なんでわかるの?」

 「高校卒業したばかりだし、買うものがひとり暮らしっぽかったから」

 君がスーパーでレジをうっていた姿を思い出した。

 「先輩、わたし家にくるよ。お料理、してあげるから」

 暗闇で、君の表情が読めない。

 「だめでしょ。さすがにまだ刑務所には行きたくない」

 「なに想像してるの?」ふっ、と笑うのがわかった。「ご飯作ってあげるだけ。暇だから」

 一瞬、断る口実を探したけど実際、俺がなにもしなければいいだけだと考えて、材料だけ買えば勝手に料理してくれるならそれは、都合は良いのではないかと考えた。

 「うーん、じゃあ頼むことあるかもしれない。その時はお願い」

 「じゃ、行こう」君が立ち上がって、お尻についた砂をはらう。

 「なに?どうしたの?」

 「先輩ん家、行くんだよ?」

 「え、今日?今日なの?」俺は少し焦る。

 「そりゃ行くよ。ご飯作らなきゃ。」

 「いや、今日はもう食べたよ。今日はいいよ、明日も仕事だし」

 「つべこべ言わないで、早くほら、立って。行くよ」君はスタスタと先に行ってしまう。

 状況がよく読めないまま慌ててついていき、駐車場について、君が訝しげな顔をした。

 「歩いてきたの?」

 「そうだよ、散歩がてら来たんだよ、ここまで」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る