第23話 全てが丸く収まって
或る日慶五郎が珍しく慶七郎を連れて梅乃にやって来たのである。
勿論妻の明奈を伴ってのことであった。
二人に話がしたいというので、二階の景色の良い部屋に上げて聞くことにした。
「母上きくをお呼び下さい」というので、廊下に控えていた仲居の松に呼びに行かせるときくは廊下でお辞儀をして、
「お呼びでしょうか」と静かな口調で告げる。
「お入りなさい」
旅籠の仲居の娘だったきくも早十七である。
すっかり武家の娘らしくなっていた。
慶五郎は両親と相対すように座り直すと、左手横に慶七郎を座らせて、反対側にきくを座らせた。
「父上母上、勝手に仕切りますことをお許し下さい。こんにちこの場にて甘利慶七郎と豊川きくのお互いの正直な気持を確認致したくお集まり頂きました次第です。
実は先達て慶七郎よりきくに対する長年に亘る思いを打ち明けられまして御座います。
十年も良くも思い続けて来れたものと感心しましたが、きくが十八になるまで待って居たというのです。
慶七郎の心はお話申し上げた通りですが、扨てそれではきくの気持ちを聞かせて貰いたいのだが如何であろうか…」
きくは普段何事にも動じない方であったが、明らかに動揺してか、頬を真っ赤に染めたのである。
「お慕い申して居りまする」
「慶七郎を支えて貰えるかな」
「はい」
慶七郎は淑やかだが真の強いきくと連れ添うことが出来るとなって嬉しかった。
この事を甘利の両親に早速報告したのである。それはもう喜んだ。
此の取り持ちをした慶五郎はその後、父である敬四郎にこれまでの不遜な態度を詫びた。
慶五郎は作事方で鍛えられたお蔭で父の真の姿を見ることが出来、誤解が消えたのであった。
目の前の父はどう見ても町人であるが、その強靭な肉体と信念には、武士としての血が通っていたのである。
葎は三人の子を立派に育て上げたと言って良かった。
また敬四郎(梅吉)も葎が年寄豊川の養女となった結果がこのような発展に繋がったのだと得心したのである。
敬四郎は梅吉と名乗ったが、これは飽くまでも料理人としての名乗りであって、本名は甘利敬四郎である。
強いて言うなら、豊川敬四郎でも良かったのだ。
こうして振り返ってみると好き勝手に生きて来たように思える。
人生五十年、も過ぎていた。
これらの事からして、これこそが役得の人生であったと言えるのかも知れない。
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