第4話 鋼の工廠
アームズ・ファクトリーベイ、兵器の製造と保管を行うエリアは離れた場所だった。廊下をオートウォークに乗って移動しながら、ノアに聞いてみる。
「まだ世界中に兵器製造の企業が残ってるはずだけど……なんでここで武器を製造してるんだ?」
「はい。移動が可能範囲内で稼働している主な兵器製造企業として、アークライト・インダストリー社、ヘリオス・ダイナミクス社、クロノヴァ・テクノロジー社、そしてネオバース・システムズ社が挙げられますが、これらの企業はすべてオーバーマインドへの対抗手段として、レーザーやプラズマ兵器、それにバイオ兵器、自立型兵器の開発、生産に特化しています」
「なるほど……」
「この施設では、和樹のインディペンデントAIにリンクできる専用兵器の製造を行っています。外部で流通する標準兵器とは異なり、和樹との適合性を最大限に引き出す設計がされています」
オートウォークに乗って約三十分が経った頃、ノアが「止まれ」と告げると同時に、オートウォークが滑らかに減速し、静かに停止した。
「ここです」
目の前では、大型の格納扉の横に設置されたドアが音もなく左右に開く。
和樹が足を踏み入れると、そこには広大なスペースが広がっていた。高くそびえるスチールフレームが製造ラインを囲み、複雑なメカニズムが絶え間なく稼働している。上部には巨大なクレーンが行き交い、精密にプログラムされた動きで重厚な機械を運んでいる様子が見えた。
「これ…全部、武器なの?」
「全てではありません。武器以外にも、移動用の特殊車両や偵察ドローン、現在リンクしているこのアンドロイドユニットも製造しています。どれも外部で使用されている標準装備より高性能です」
「オーバーマインドと比べたら……どんな感じなんだ?」
「オーバーマインドの技術力に対抗するため、各兵器には独自の防御システムや独自のAI技術を採用しています。オーバーマインドに十分対抗できる性能を備えています」
和樹は対抗出来ると聞いて楽観的な顔をする。
「ただし、オーバーマインドのシステムは複数のネットワークとリンクし、常に自己進化を続けています。こちらも常にアップデートしていく必要があります」
「安心は出来ないということか…」
和樹はノアの説明に耳を傾けながら、アームズ・ファクトリーベイの中を見て回った。そこには見たこともない無数の兵器が並んでいたが、ナノリンク・データフィードの効果で、和樹はそれらの機能や仕組みを瞬時に理解していく。
和樹は手にしたレーザー銃をじっと見つめた。これがレーザー銃か……。日本にいた頃、よく見ていたSF映画を思い出す。映画の中でレーザー銃を撃ち合うシーンが浮かび、自分がその中にいるかのような想像をしてみると、思わず笑みがこぼれた。
「和樹、試射してみますか?向こうにエネルギー兵器のテストブースがあります。どうぞこちらへ」
ノアに案内され、和樹はエネルギー兵器のテスト用ブースに足を踏み入れた。ブース内には防護フィールドが展開され、安全にプラズマガンやレーザー兵器を試せるようになっている。
和樹は銃の使用方法を頭で理解していたものの、実際に手にしたレーザー銃を試射スペースで構え、標的に狙いを定めて引き金を引いた。
瞬間、銃口から放たれたビームが空気を一瞬で熱し、白熱する光が目の前を貫く。そのあまりの光量と威力に、和樹は思わず息をのむが、ビームは標的を逸れてしまった。
「くっ……難しいな」
「和樹、インディペンデントAIの補助機能を使用します。意識を集中させ、照準に合わせてください」
ノアの言葉に従い、和樹は再び狙いを定めた。今度はAIの補助が入ったことで、狙った標的が浮かび上がるように鮮明に映る。深呼吸をして再度引き金を引くと、ビームが真っ直ぐに標的の中心へと吸い込まれていった。
和樹は、インディペンデントAIによって補完された初めての手応えに思わず笑みを浮かべた。
「和樹、撃った感覚はどうですか?」
「あー……なんというか、サポートされてる感じがしたというか……」
「訓練中にデータは提供しますが、補助も完璧ではありません。戦闘の質はAIとのシンクロ率によって大きく左右されます。和樹には戦闘をしながら、これらのレベルを徐々に高めていってもらいます。シンクロ率によって強力な兵器も使えるようになります」
和樹は四つ足の機械と対峙した時のことを思い出し、戸惑いながら口を開いた。
「でもさ、あの四つ足の奴を倒したときは……俺、何も考えなくても体が勝手に動いて、自然に倒せたんだよ」
「はい、あれは『AIの完全補助』です。ですが、この状態はナノマシンのエネルギーを極めて大量に消耗するため、長時間の使用は不可能です。エネルギーが尽きれば、通常補助すら使用できず、和樹は一般の高校生と変わらない状態になります」
「そ、それはちょっとマズいな……」
「通常補助での戦闘が基本となります。シンクロ率を向上させれば、安定した戦闘力を発揮でき、危険も大幅に減少しますので、心配いりません」
「訓練、頑張ります…」
「特に他に確認事項がなければ、次はリビング・キャビンへ向かいますか?」
「そういえば……ちょっとアンドロイドについて聞いてもいい?」
「はい、どうぞ」
和樹はふと、流れ込んできた断片的な記憶の中にあった、アンドロイドの存在について思い出す。
「ナノリンク・データーフィードで入ってきた記憶の中じゃ、アンドロイドってかなり厄介な敵だったようだけど……今もそんな感じなの?」
「はい。アンドロイドが脅威とされる主な理由は、現在の人類側がAIを使用できないため、アンドロイドの侵入を阻止できないことにあります。人類も人間とアンドロイドを見分けるセンサーを開発しましたが、AIネットワークを持つオーバーマインドのアンドロイドは瞬時に対応策を学習し、即座に人間社会に紛れ込むことが可能です」
ノアは一瞬間を置き、続ける。
「事実、潜入したアンドロイドが情報を収集し、いくつもの都市が制圧され、多くの企業がデータを漏洩しました。和樹はインディペンデントAIを搭載しているため、敵アンドロイドの識別が可能です。そのため、和樹が戦闘において有利な点でもあります」
「それって、どうやって識別するんだ?正直、ノアを見ても人間と区別がつかなかったくらいなんだけど……」
「ご安心ください、識別は私が行います。AI解析でアンドロイドの製造番号から製造日まで、すべて正確に把握できますので」
「い、いや、そこまで詳しく教えてもらわなくても大丈夫だから」
「それではリビング・キャビンへご案内します」
和樹は未練がましくバイクや車のエリアを見渡し、心の中で「次に来たときにじっくり見よう」と決めて歩き出した。
だが、部屋を出ようとしたとき、あり得ないものが視界に飛び込んできた。
「ノア!ちょっと待って!あれ、何?」
和樹は製造ラインの中央にある奇妙な存在を指差した。
「はい。あれはインタラクティブAI兵器管理ユニットです」
「いやいや、どう見てもフクロウじゃん!あれって鳥の……夜にホーホーって鳴く、あのフクロウだよね?」
「いいえ、フクロウではありません。あれはAI兵器管理ユニットです。質問すれば、兵器の製造プロセスやメンテナンス方法についてリアルタイムで回答してくれます」
「そ、そうなんだ……でも、なんでフクロウの形してるんだ?」
「…それは設計者である和樹のお父様のご趣味です」
和樹は思わず苦笑いを浮かべ、「な、なるほど……次に来たとき、よく見てみるよ」と小さく呟いた。
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