第33話
と話す岩島さんが指差したのは、床の間にある先程の刀。黒い鞘に収められたそれは、手入れが施されて艷やかだ。
「そんな親父さんは、拳銃を持った奴らでさえも逃げだすくらい強かったんやで? ほんで、いつしか親父さんは銀楼会の死神と呼ばれるようになった」
「なんで死神なんですか?」
「そら、出会ったら最後。殺されてしまうからやろ」
「じゃあ、岩島さんは何で銀楼会の鬼なんですか?」
私が聞き返すと、岩島さんは煙草の火を灰皿で揉み消して、
「そら、死神と共に行動しよったさかい、いつの間にかそう呼ばれるようになってん」
微かに煙草の臭いがする。
私が十六歳の時に起きた抗争、記憶のないそれが本当にあったのか。それに、なぜ岩島さんはその話をしたのか。
小火との関係がうまく読み取れない。
「それと、これと何の関係があるんですか?」
私が聞くと、岩島さんはチラッと亮平おじさんの方を見て、
「そら、関係あんねん。
ある日、沙羅の学校で授業参観があったんや。周りは止めたんやけど、親父さんは高校で初めての参観日たから見にいく言うて聞かんやった。
せやから、ワシと城山が付き添うことを条件に、高校へ向かってん」
岩島さんは息を吐いて呼吸をし、
「行きは何もなかった。授業中も休み時間も何もない。お前は、楽しそうにクラスの仲間と話していて、ワシはそれを見ているのが幸せやった。
せやけど、問題は帰り道や。車を使えばよかったんやけど、すぐに足がつく上に襲われたら終わり。
そう考えた六代目は、交通機関を使うて帰ることにしたんや。流石の関東者も人前では手を出せん。そう高を括っとったんやけど、それが間違えやったんや」
カチカチと聞こえる、掛け時計の秒針が動く音。やけに辺りは静かで、外からコウロギや鈴虫の音色が微かに聞こえてくる。
「駅を出て人通りの少ない道を四人で歩いていると、突然田所会の連中が現れた。しかも、先頭にいるのは気狂いと呼ばれとった北城。あいつはワシらを殺そうと銃を構えて、ニタニタと笑ってんねん。
せやけど、六代目には銃など通用せん。親父さんは、近くにあった鉄の棒一本で全員打ちのめしよった」
「それってすごいんですか?」
私が聞くと、岩島さんは目を見開いて驚き、
「あたりまえやろ! 相手は拳銃を持ってんねんで? よう勝てるな思うたわ」
興奮気味に答えた岩島さんは、息を吐いて気持ちを落ち着かせ、そして話を続ける?
「ほんで、北城は六代目に酷く怯えていた。死を覚悟したんをやろな。せやけど、お前はそんな北城を庇ってしもうた。
殺さないで、かわいそう。そう何度も訴えるお前に親父さんは何も言えず、北城は射るようにお前の方見ていて。
その日から、北城のお前に対するストーカーが始まったんや」
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