第31話

無駄な本を買ってしまったと後悔をするおじさんに、かける言葉が見つからず。話している内容が大人大人していて、全くついていけない。

 返事に困っていると、部屋の扉が開いた。すると、開いた扉から、岩島さんが中へ入ってくる。

 水色のフェイスタオルで豪快に頭を拭いている彼は、こちらを見て口を開く。


「また本なんか読んどる。そんなもん読んで何が楽しいんや? 眠なるだけやろ」


 向かいに座った岩島さんが、大きく欠伸をした。そして、彼は近くに居た使用人の男性に、麦茶を持ってくるように命令。

 男性が部屋を出ていく中、亮平おじさんは溜め息を吐いて、


 「お前は本を読め。それよりも、なんだその格好は?」


 恥をしれとおじさんは岩島さんを睨むが、岩島さんはポカンと口を開けて、


「何って、正装に決まってますやん」

「……正装?」


 岩島さんが答えた瞬間、おじさんの眉間にしわが寄った。

 無理もない。今の彼は、上半身裸という季節にそぐわない格好なのだから。

 私は水色の寝間着、亮平おじさんは落ち着いた色の秋浴衣を着ていて。今の岩島さんは、かなり浮いた格好をしている。


「どう見ても正装ですやん。日本男児なら当たり前の格好と思いませんか?」

「礼儀を重んじている俺に、正装のイロハを語るのか?」


 亮平おじさんが聞き返すと、岩島さんはおじさんから目を逸らした。そして、彼は貧乏揺すりをしながら口笛を吹いている。


「そんな格好で恥ずかしくないんですか?」


 私が聞くと、彼は貧乏揺すりを止めて、


「恥ずかしいも何も、お前と変なおっちゃん。ほんで、雑魚しかおらへんやん。

 服着らんと死ぬわけやあらへんし、ええやん別に。個人の自由っちゅうやつやで」


 あっけらかんと答える彼を前に、開いた口が塞がらない。

 見慣れたにしろ、彼の裸を見るのは恥ずかしい。それが上半身だけだとしてもだ。

 すると、亮平おじさんが無言で立ち上がった。そして、おじさんは床の間に飾ってあった日本刀を手に取り、


「それならば、その腐り切った根性ごと叩き切ってやる」


 おじさんは本気なのか、日本刀の鞘を抜き取ろうとしている。鞘との隙間から見える刃はギラリと光り、血を飲みたそうにこちらを見ている。


「しゃ、シャレ言うただけやのに、ホンマに殺す気ですか? 流石にシャレにならんで!」

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