第28話

日が暮れて辺りが暗くなってきた中、二人の言い合いは終わりが見えず。何が楽しいのか、互いを罵るばかり。

 互いを尊重し合えれば、無駄な言い争いは生まれないのだろうが。逆に、尊重し合う仲だったなら、そこまで深い仲にはならなかっただろう。

 真っ暗な空にポツポツと星の光が浮かび上がり、私達は夜の闇に溶け込んでいく。

 すると、庭に設置された外灯に明かりが灯され、光の道を作っていく。

 私は二人を無視してそこを通り、家の中へと入る。 

 今日も疲れた。明日も疲れるかもしれない。それでも、その疲れは心地よく、嫌なものではない。


「ただいま」


 独り言のように挨拶をし、廊下への上がり口に腰をついて靴を脱ぐ。


「おかえり、沙羅ちゃん」


 脱ぎ終えたのと同時に、聞こえてくる声。それは、亮平おじさんのもので。声がした方を見ると、廊下に立っているおじさんの姿が見えた。


「お父さん」 


 返事をすると、おじさんはにっこりと笑む。

 この人は、おじさんなのか。将又、本当のお父さんなのか。葬式の時以降、分からないまま時が過ぎたが。

おじさんでもお父さんでも、大切な人には変わらず。私は、おじさんをお父さんと呼び続けている。


「表が騒がしいようだけど、何かあったのかい?」


と聞かれて、私は返事に困り。けれど、おじさんに嘘を吐くわけにもいかず、私は困った顔で口を開く。


「あの、辰さん達が言い合いをしていて……」

「岩島と白石だね?」

「はい」


 私が返事をした瞬間、おじさんは笑みを口元に貼り付けたまま、玄関引戸の向こうを睨む。

 その表情は言葉で表せないほど恐ろしく、私には絶対に向けない顔だ。


「そうか」


 草履を履いたおじさんが、玄関の戸を開けて外へと出て行く。そして、少し経った後、岩島さん達の声が止んだ。

 何があったのか気になって外を覗こうとすると、「止めたほうが良いですよ」と近くに居た使用人の男性に止められた。

 なぜ止められたのかは分からないが、今は覗かない方が良いと彼は言う。


「ワシやのうて白石が文句垂れとった言うんに、何でワシが睨まれなあかんねん」


 すると、岩島さんの声が聞こえ、その声は次第に大きくなり。それに伴って足音も近付いてくる。

 そして、玄関引戸の磨りガラスに黒い影が一つ映り。けれど戸は開かず、そこで立ち止まったままの状態で微動だにしない。

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